コラム

嘘つき大統領トランプがアメリカの民主主義を打ち砕く

2019年10月16日(水)17時25分

magw191016_Trump2.jpg

トランプはバイデン(中)と息子ハンター(右)が腐敗していると主張するが JONATHAN ERNST-REUTERS

アメリカ史上、弾劾に直面した大統領は3人。1868年にアンドリュー・ジョンソンは、南北戦争終結後に南部寄りの政策を取ったとされた。1974年にリチャード・ニクソンは、ウォーターゲート事件をめぐる違法行為を問われたが、弾劾裁判の直前に辞任した。1999年にビル・クリントンは自身の情事をめぐる偽証を問われた。

ただし、実際に弾劾裁判でホワイトハウスを追われた大統領はいない。

中国に選挙介入を要求

民主党は数多くの文書と供述証拠を基に、今回の疑惑に絞って弾劾調査を進めている。しかし、相手はトランプだ。その直感的な手法と露骨な政策目標は、さながら毎日がテレビのリアリティー番組だ。

トランプは毎朝5時半か6時頃から、陰謀論や下品な侮辱、さらには自己憐憫と自画自賛をツイッターに投稿する。議会が弾劾に値する容疑だと認める前に、記者会見で、中国政府にも自分の政敵を攻撃する手助けを求めたいと言ってのけた。

そのやり方は、どんな問題に直面してもぶれることがない。決して間違いを認めず、決して謝罪しない。外国政府に米大統領選への介入を求めるかのような発言も意に介さない。

弾劾裁判を開くかどうかを決めるのは、民主党が多数派を占める下院だ。しかし、弾劾するかどうかを決めるのは、共和党が多数派の上院だ。罷免には上院の3分の2の賛成票が必要だが、まず実現しそうにない。

トランプが弾劾を回避できれば、弾劾手続きによって自分の潔白が証明されたと主張するだろう。そして、信用を失った(と、彼は主張するはずだ)議会の民主党指導部に対し、さらに強権的な支配を振るうだろう。

その一方、もしトランプの罷免が実現すれば、米政府の針路も指導体制も変わる。トランプは複数の罪状で起訴され、共和党は過去に例を見ない大変動に見舞われる。

とはいえ今回の弾劾調査は、アメリカの歴史における極めて深刻な事件の一端にすぎない。今やアメリカの民主主義の根幹と慣行がゆっくりと、恐ろしいまでに崩壊し始めている。この国の民主主義そのものが崩れ落ちようとしているのだ。

筆者は近年、アメリカの制度と民主主義は国家を二分した南北戦争以来、最悪の危機の渦中にあると何度も警告を発してきた。民主主義的な規範、慣行、制度、法律はどれも段階的に腐食が進み、政府は法やチェック・アンド・バランスを原則とする「国民の代表」ではなく、ごく少数の男たちが権力を振るう構造に化しつつある。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:動き出したECB次期執行部人事、多様性欠

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で

ビジネス

NY外為市場=円急伸、財務相が介入示唆 NY連銀総

ワールド

トランプ氏、マムダニ次期NY市長と初会談 「多くの
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワイトカラー」は大量に人余り...変わる日本の職業選択
  • 4
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 5
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 8
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 9
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story