コラム

ハロウィンが栄えて国が滅ぶ理由

2020年10月31日(土)22時00分

「光と影の魔術師」と呼ばれた近代絵画の巨匠・レンブラントは、人物に過度ともいえる照明(ライティング)を施すことによってその陰影を際立たせ、劇的で動的なオランダ黄金期の市井の人々を描いた。レンブラントは、被写体に強烈に照射された光は、と同時に漆黒の暗部を宿すという絵画的構造を見事に様々な作品の中に活写した。

このレンブラントの「光と影」の構図は、そのまま今日的日本社会に当てはまるものと言えよう。ハロウィンでハレ(非日常)に浮かれ、マスメディアが彼らに光を当てれば当てるほど、と同時に漆黒の暗部の輪郭が際立つ。ハロウィンで浮かれれば浮かれるほど一部の「友人力」を駆使した特権階級の「明」は、残酷にもそれに参入することすらできない「暗部」の稜線を私たちの眼前に叩き付けるのである。

しかもそれは、例えば学力といったある程度努力すれば相応の向上が見込める、といった公平なものでは無い。ハロウィンに参入できる「友人力」は、学力と違ってその向上に努力の要素が少ない。例えば、中学・高校と付属校からエスカレーターで大学に内部進学した大学生は、社交性と友人力を努力することなくそれ以前の段階で身に着けている。

一方、裸一貫で上京した非内部進学生は、学力は努力で何とかなるが、この社交性や友人力はそういった努力で向上できるものでは無いことにはたと気がつく。社交性や友人力の涵養は、長い期間とセンスが必要であり、こうすれば上昇するという定石は存在しない。

幻の「大学デビュー」

それは長く安定した環境の中で、ダイヤの原石を研磨するが如き行為であり、それこそ自然な「振る舞い」としてゆっくり涵養されるもので、これを18歳とか20歳の段階で自然と身に着けられたものと、ゼロから出発する者とでは、どだいスタートラインが何周も何キロも遅れているのである。

これが大学に入学したとたん、それまで男女交際も友達も禄にできなかったニキビ面の男子生徒が、途端に社交性を身に着けサークルの寵児になる──というありもしない幻想が「大学デビュー」である。「大学デビュー」など、この世には存在しない。大学デビューは、大学に入る前の中学・高校の6年間の過ごし方ですべてが決まっており、入学してからでは手遅れである。

しかしそんな不都合な事実を隠ぺいして、メディアのプロパガンダを鵜呑みにし、未だに「大学デビュー」が出来るものと疑わない若者は、自由放任の大学空間で途端に孤立し、「ハロウィン」どころか学食にも行くことができなくなる。中学・高校の6年間で、学力向上以外に何もしなかった者が、まして「ハロウィン」に参加できるなどとは、毛沢東の大躍進政策よりも遥かに実現不可能な空想なのである。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

豪首相、AUKUSの意義強調へ トランプ米大統領と

ワールド

イラン、イスラエル北部にミサイル攻撃 「新たな手法

ビジネス

中国粗鋼生産、5月は前年比-6.9% 政府が減産推

ワールド

中国の太陽光企業トップ、過剰生産能力解消呼びかけ 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story