コラム

オミクロン株対策で「鎖国」するニッポンの小ささ

2021年12月07日(火)15時09分

もちろん、入国制限を全くする必要がないということではない。観光やビジネス目的での渡航は、しばらく我慢してもらう必要があるかもしれない。日本でのコロナ第五波は医療崩壊を招き多くの犠牲者を出したが、その間にオリンピックによって海外からの人流を不必要に増やしたのは愚策であったといえよう。

しかしその一方で、どうしても必要な渡航もあるのだ。検査と隔離の徹底によってそうしたニーズには権利の問題として対応しなければならない。厳格に入国を禁止してしまえば空港での対応は杜撰でよいというのは、極めて無責任なのだ。無責任さの例としては、昨年から続く留学生問題がある。

放置され続けている留学生

新型コロナウイルスの問題が発生して以降、日本への留学が決まっていながら日本に入国できず、学業や研究の一時中断を強いられている学生が多数いる。各大学では昨年春頃からずっと問題になっていたのだが、政府は特に救済を行わなかった。オリンピック期間に大量の関係者を入国させたが、留学生の受け入れは解禁されなかった。

第五派がとりあえず落ち着き、感染者が激減した後にようやく留学生の受け入れが許可されたが、今回の外国人入国規制で、再び渡航が難しくなっている。当事者の絶望は計り知れないだろう。

感染状況の変化に拘らず、検査や隔離といった水際対策を充実させることで、留学生など「不要不急」ではない来日外国人の権利を守っていく必要がある。

分断を招く水際対策

外国人の入国を原則的に禁止する一方で、日本に入国した邦人や例外的な外国人に対しては検査や隔離を徹底することはないという、感染症対策としては非合理的な措置を行っている日本政府だが、この政府の対応に対する世論の支持は高いという。一部野党のより強硬な態度も含め、注意しなければならない現象だ。なぜなら、それはウイルスを運んでくるのは「身内」ではない「よそもの」だという、呪術的な意識が浸透している兆しであるからだ。

新型コロナウイルス感染に伴う外国人への差別や偏見は、エッセンシャルワーカーや医療従事者への差別や偏見と並んで、これまでも報告されてきた。外国人の入国禁止という政府の対応は、その傾向を助長する可能性もある。パンデミックに対抗するときの島国であることのメリットを、排外主義的欲求と結びつけてはならない。

さらに外国人の中でも、特別永住者、永住者、あるいはその家族など、様々な「ランク」を設けることによって、外国人同士の対立や、日本人による特別永住者や永住者の権利をさらに制限していくような圧力が高まる恐れがある。

岸田首相は、PCR検査の拡充と無料化など新型コロナ対策の充実を訴えて自民党総裁選に勝った。しかし実際に行うことが、外国人をスケープ・ゴートにすることであるなら、それは問題のすり替えであり公約違反であると言わねばならないだろう。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

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