コラム

オミクロン株対策で「鎖国」するニッポンの小ささ

2021年12月07日(火)15時09分
成田空港

外国人の入国が停止された日の成田空港(11月30日) Kim Kyung-Hoon- REUTERS

<政府の厳格で人権無視の入国制限を後押ししているのは、ウイルスを運んでくるのは「よそもの」だという日本人の呪術的な意識だ>

11月30日、日本政府は新型コロナウイルスの変異株オミクロンへの対策として、防疫を強化し、外国人の新規入国を原則的に停止した。さらに12月2日、南アフリカなど十カ国からの渡航は、在留資格をもつ外国人の再入国も認めないとした。急遽決定されたこの新しい基準は、WHOも疑念を示すほど、賛否が分かれる問題だ。

外国人にのみ強化された入国制限

南アフリカで確認されたオミクロン株は、その感染力の強さにより世界的に警戒されており、岸田政権は水際対応として外国人の入国を厳しく制限することにした。ただし邦人の帰国については検査と隔離が強化されたものの制限されることはなく、国籍を基準としたこの露骨な格差が世界的に報道されると、日本は再び「鎖国」することになったと諷刺されるまでに至った。

ウイルスに国境は関係しないのだから、日本に来る外国人が日本人以上にリスク要因とする根拠はない。日本に生活基盤をもつ外国籍者もいる中で、かれらを日本国籍者と区別する意味はないのではないか。もちろん日本政府も全く配慮していないわけではない。日本に永住権を持つ者やその家族は例外的に再入国を認められている。しかしそれ以外の外国人にも日本に生活基盤をもつ者いて、かれらが締め出された場合は路頭に迷うことになる。

この意味で、今回の入国禁止措置は、外国人の人権の問題に関わってくる。しかし入管法改正問題では政府を批判した野党の一部ですら、外国人に対してより厳しい措置を要求している。たとえば立憲民主党の早稲田夕季議員は、永住者の再入国も禁止せよと要請を行っているのだ。

入国制限よりも検査と隔離の徹底をすべき

世界保健機関(WHO)は日本政府の措置について「理解困難」であると述べ、厳しい入国制限ではなく、検査と隔離の強化によってオミクロン株に対応することを推奨している。これまでも、日本の検疫体制の貧弱さはよく指摘されてきた。たとえば検査にはPCR検査ではなく抗原検査が用いられている。また、現在は自主的な待機ではなく、義務的な待機宿泊が強化されているが、待機場所への移動は自家用車やレンタカーやハイヤーなど自力で行うことになっており、極めて杜撰だ。いわゆる粗末な「隔離メシ」に象徴されるように、隔離された者に対して丁寧に対応する姿勢もみられない。一つ一つのプロセスを全体的に見直していかなければならない。

12月4日、宿泊施設の確保が難しいなどの理由により、政府はオミクロン株の感染流行国以外からの入国者について、自宅隔離を認めるとした。しかし各国での感染確認にはタイムラグがあり、感染が確認されていない国からの渡航者だからといってオミクロン株に感染していないとは限らない。そうでなくても、別の変異株に感染している可能性もある。自宅隔離は家族や市中への感染リスクがあり危険だ。なぜ政府は予備費を使って宿泊施設を確保することができないのだろうか。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

EU、来月までに新たな対ロシア制裁の準備完了=外相

ビジネス

「ラブブ」人気で純利益5倍に、中国ポップマート 1

ワールド

米、中国の鉄鋼・銅などに新たな輸入規制 ウイグル強

ワールド

米政権、インテルへの出資は「経営安定が目的」 株式
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 2
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 3
    【クイズ】2028年に完成予定...「世界で最も高いビル」を建設中の国は?
  • 4
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 5
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 6
    広大な駐車場が一面、墓場に...ヨーロッパの山火事、…
  • 7
    時速600キロ、中国の超高速リニアが直面する課題「ト…
  • 8
    【クイズ】沖縄にも生息、人を襲うことも...「最恐の…
  • 9
    「吐きそうになった...」高速列車で前席のカップルが…
  • 10
    ニューヨークで「レジオネラ症」の感染が拡大...症状…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 4
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 5
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 8
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 9
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 10
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story