コラム

メルケル独首相が、ツイッターのトランプアカウント停止を「問題」とした真意

2021年01月15日(金)11時46分

つまりドイツにおいては、ヘイトスピーチの規制をプラットフォーム企業の独自の判断によって行うのではなく、法に基づき政府の監督下で行う枠組みがすでに存在するのだ。またこの法改正の際、私企業に政府への協力を義務付けることは言論の自由への萎縮効果をもたらすのではないかという野党の批判に、国際プラットフォーム企業が野放し状態であることの問題性を主張することで応じてきたという経緯がある。この文脈を踏まえると、メルケルが法に基づかない私企業によるアカウント永久凍結を問題視するのは自然なことだと分かる。そうでなければ、ドイツ政府のこれまでの主張と一貫性が保たれないからだ。

国際プラットフォームの統制への取り組み

ネット上のヘイトスピーチについては、ドイツはEUの枠組みでも働きかけを行なってきた。FacebookやTwitterは、今や社会にとって、なくてはならないツールとなっている。SNS上で飛び交うヘイトスピーチは、もはや往来でそれを叫ぶのと一緒なのだ。サービスを管理する企業には、そのようなヘイトスピーチを許しておかない社会的責任があるという考え方が現在では主流となっており、多くの企業はそれに応じた規約を設けている。

一方でSNSは、市民が意見発信する重要なツールでもある。SNSを出発点とする政治的ムーブメントが良くも悪くも増えている。政治家ですら、SNSなしでは活動の幅を大きく狭めることになる。したがって、SNSを使う権利の保障は言論の自由の保障と同義でもある。

今やインターネットサービス上の誹謗中傷やヘイトスピーチの問題と言論の自由との対抗関係は人権に関わる大きな問題だ。それをSNSの所有者である国境を超えて活動する国際プラットフォーム企業の判断に任せていいのか、という議論がある。国際企業には市民の人権問題を判断するための法的・民主的正統性がない。従って、国家や国際機関が、法や民主的正統性に基づいて、そうしたプラットフォーム企業を統制していくべきだ、という潮流が国際的に出来つつある。トランプアカウントの永久凍結への賛否に関わらず、この一件はそうした議論を加速させることになるだろう。

Twitterに求められる社会的責任

トランプアカウント永久凍結という個別ケースについて私見を述べれば、これはドイツのような根拠法をもたない国の事情も鑑みれば、緊急避難としてやむを得ざる措置だったと考える。これまでTwitter社は、トランプ大統領の度重なる規約違反を、その政治的地位に免じて黙認してきた。それが今回ついに、陰謀論に取り憑かれた暴徒たちの決起という具体的事件となるに至って、永久凍結という判断に踏み切ったのである。しかし、Twitter社の凍結をめぐる運用については一貫性のないところも大きくあり、恣意性を排除した、より透明性と公正性を高めるようなシステム改善が必要なことには間違いない。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

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