コラム

南米はパレスチナの救世主?

2011年01月07日(金)16時59分

 パレスチナ自治政府の発表によれば、チリとパラグアイは今後、パレスチナを1967年の第3次中東戦争のイスラエル占領地(ヨルダン川西岸、東エルサレム、ガザ)を範囲とする主権国家として承認する予定だという。南米では過去1カ月でブラジル、アルゼンチン、ボリビア、ウルグアイ、エクアドル、ベネズエラが立て続けにパレスチナ国家を承認した。ロサンゼルスタイムズ紙のダニエル・ヘルナンデス記者は次のように書いている。


 チリのセバスティアン・ピニェラ大統領は1月1日、ブラジル初の女性大統領ジルマ・ルセフの就任式に出席するためにブラジルを訪問。そこで(パレスチナ自治政府議長の)マフムード・アッバスと1対1で会談した。チリのラ・テルセラ紙によれば、アッバスはパレスチナを国家として承認した「大統領たちに感謝の意を伝えるため」就任式に出席した。

 チリには約35万人ものパレスチナ系住民がおり、その多くはキリスト教徒だ。多くの南米諸国と同じく、巨大なユダヤ人社会も存在する。チリのユダヤ人指導者は今回の承認を「軽率な行為」と批判している。

 チリなどの承認はイスラエルを困惑させている。こうした南米の国々の中に、アメリカが主導し、現在はこう着状態にあるイスラエルとパレスチナの和平交渉に直接的に関与している国などないからだ。


 

 パレスチナは近く、エクアドルに大使館を設置する。チリのピニェラは3カ月以内にヨルダン川西岸を訪問する予定だ。

 ノースカロライナ大学准教授のグレッグ・ウィークスは、南米政治ブログで興味深い指摘をしている。彼いわく、南米におけるパレスチナ承認の一連の動きには、まとまりがない。これまでパレスチナ問題に深く関与してきたわけではないこういった国々の動きを語るうえで、アメリカと南米諸国の関係や、ブラジルの影響力の高まりを無視することはできない。

 パレスチナ承認の流れをつくった最初の国はウルグアイだったが、本当にその流れが大きく膨らんだのはブラジルが12月に承認してからだ。これはブラジルのルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ前大統領の最後の仕事の1つだった。

 中東問題におけるブラジルの重要性はルラの下で増したが、その多くはアメリカの政策と相反するものだった。アメリカに反抗するブラジルの政治姿勢に、ピニェラのチリからウゴ・チャベス大統領率いるベネズエラまで、政治的志向の異なる国々が素早く追随した。これは南米大陸で起きているパワーシフトを如実に物語っている。

 注目すべき国はコロンビアだ。歴史的に親米路線を貫いてきたが、フアン・マヌエル・サントス大統領の下で周辺国との関係を強め始めている。今のところ沈黙を守っているコロンビアだが、もしパレスチナを国家承認する動きを見せれば、ルラの遺したブラジル外交の影響力を示す何よりの証明になるだろう。

──ジョシュア・キーティング
[米国東部時間2011年01月05日(水)13時37分更新]

Reprinted with permission from FP Passport, 7/1/2011. © 2011 by The Washington Post Company.

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ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

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