コラム

ウィキリークス機密文書公開の未熟度

2010年10月25日(月)17時32分

 インターネットの内部告発サイト、ウィキリークスがまたやった。10月22日、イラク戦争に関する米軍の機密文書をインターネット上で大量に公開したのだ。7月にはアフガニスタン駐留米軍などの機密文書約7万点以上を公開して物議を醸したが、今回は04〜09年の機密文書およそ40万点。

 ウィキリークスから事前に資料を入手した米ニューヨーク・タイムズ紙英ガーディアン紙は、内容を確認した上でそれぞれ着目点を発表した。見たところ、両紙とも同じようなポイントをあげている。

 公開された資料に含まれるイラク人の死者数はブッシュ政権が示唆していた数よりも多く、04〜09年の死者数はおよそ10万9000人で、うち6万6081人が非戦闘員だったとされている。米政府はイラクの治安部隊による虐待行為が横行していることを知りながら、ほとんど何もしなかったことも記されている。

 さらにイランがイラクの反米武装勢力の訓練を行っていたことや、いずれイランがシーア派の武装勢力に化学兵器を提供する恐れもあるため、米軍内で懸念が高まっていたことも明らかになった。

 今回の機密文書の公開で最も得をしたのは、民間団体のイラク・ボディーカウントかもしれない。イラク戦争によって死亡したイラク市民の数を算出する同団体は、提示する死者数があり得ないほど多いとブッシュ政権に批判され続けていた。

 もう一つ、それほど重要ではないが気になるのは、ウィキリークスは準備や宣伝に何週間もかけた末に、なぜ文書公開のタイミングをよりによって金曜日の午後5時にしたのか。ニューヨーク・タイムズもガーディアンも、金曜日の午後は世間の注目を集めにくいことは知っているはずなのに。ウィキリークスはジャーナリズムの革命児を目指すというわりには、メディア戦略がまだまだ未熟なようだ。

――デービッド・ケナー
[米国東部時間2010年10月22日(金)17時45分更新]

Reprinted with permission from "FP Passport", 25/10/2010. © 2010 by The Washington Post. Company.

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国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

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