コラム

ギリシャとドイツの「救済ヒステリー」

2010年02月26日(金)17時08分

 

暴力へ発展 ギリシャの首都アテネでは緊縮財政に反発する人々が
大規模ストライキを実施し、警官と激しく衝突(2月24日)
Yiorgos Karahalis-Reuters
 


 欧州の首脳は2週間ほど前、財政危機に陥ったギリシャの救済に向けてドイツに先導的な役割を委ねた。以来、両国の間には騒乱と混沌が広がっている。ドイツ人から見れば、ギリシャが米大手金融機関の力を借りて行っていた債務隠しから、年金制度を圧迫し財政赤字を招く平均定年年齢の低さ(61歳)まで、何もかもが腹立たしいようだ。一方のギリシャ人は、ドイツの新聞は人種差別的であり、西ヨーロッパの指導者たちは自分たちに干渉しすぎだと非難している。

 2月24日には緊縮財政に反発する労働組合などがギリシャの首都アテネで6万人規模のストライキを行い、一部が暴徒化。町全体が事実上マヒ状態に陥った。

 一方、同国のテオドロス・パンガロス副首相はドイツ批判に歴史まで持ち出した。イギリスのBBCラジオとのインタビューで、30万人近い死者を出したとされる41年のナチスによるギリシャ侵攻について触れた。


(ナチスは)ギリシャの銀行にあった黄金を奪った。彼らはギリシャから金を奪うだけ奪って、決して返金しなかった。これはいつか向き合わなければならない問題だ。何が何でも金を返せとは言わないが、せめて「ありがとう」くらいは言う必要がある。それに盗みや、経済的取引の詳細説明の不足についてあまり文句を言うべきではない。


 結局のところ、こうした外交的な攻撃は誰にも恩恵をもたらさない。ギリシャ人はドイツの助けを求めていないし、ドイツ人はギリシャを救済する立場に置かれることを快く思っていない。しかしギリシャが助けを拒めば、待っているのは大量の失業と人口の国外流出、社会保障費の大幅削減、そして長引く不況だ。たとえ緩やかな緊縮財政対策に、富裕層への増税など大衆迎合的な政策を組み合わせても、うまく行かないだろう。余談だが、「黄金には感謝している」とアンゲラ・メルケル独首相が言っても、ギリシャ政府には受けないと思う。

──アニー・ラウリー
[米国東部時間2010年02月25日(木)13時05分更新]

Reprinted with permission from FP Passport, 26/2/2010. © 2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

来年はボラティリティー高く利益上げるチャンス、資産

ビジネス

航空業界、機体確保に障害でも来年過去最高益 IAT

ワールド

米・メキシコ、水問題巡り9日にオンライン会談へ

ワールド

EU加盟国、40年までの温室効果ガス排出90%削減
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「財政危機」招くおそれ
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 8
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 9
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story