コラム

オバマとキューバの「かりそめの蜜月」は終わった

2010年01月08日(金)16時01分

 ここ数日、アメリカとキューバの関係が悪化している。最大の原因は12月初旬、キューバでノートパソコンの流通に携わっていたアメリカ人業者が逮捕されたことだ。南北アメリカの政治や文化に関する啓蒙活動を行うアメリカズ・ソサエティーのクリストファー・サバティーニは、事態の重要性について次のように語っている。


 先月の米国際開発庁(USAID)の請負業者の逮捕劇は、バラク・オバマ米大統領が昨年4月に大々的に発表したキューバとの通信開放が実を結んでいないことの表れだ。オバマはキューバへの制裁緩和を掲げ、アメリカの企業がキューバの通信事業に参入できるようにすると語った。確かに魅力的な話だが、残念ながら大統領の指示が法案に具現化するまでに、何かが失われてしまった。

 9月に継続された制裁法案は、オバマの気高い理想を後押ししなかった。キューバはご存知の通り時代遅れの島国。しかし、この国を世界と結ぶのに必要な通信インフラを米企業が販売したり敷設したりすることは禁止された。その代わりに寄付をすることは認められたが。

 つまり、民間企業がこの島国を開放させるためのイニシアチブにはつながらなかったということだ。


 さらに昨年12月25日の米旅客機テロ未遂事件を受けて、米政府は入国する際にさらに厳重な入国審査を実施する国を新たに指定。その中にキューバが含まれたことに対し、政府は激しく抗議している。

 オバマの融和政策は、民主党のクリストファー・ドッド、バイロン・ドーガン両上院議員が辞任したことで大きな打撃を受けた。特にドッドは通商禁止の緩和を積極的に訴えてきた人物だっただけに衝撃は大きかった。

 さらに新旧2人のキューバ国家評議会議長である、フィデル・カストロと弟ラウルが反オバマ的な発言をエスカレートさせていることが、両国関係が悪化しているとする報道を増やす要因となっている。

 だが、オバマとキューバの蜜月そのものが誇張だったのだろう。フィデルが自身のブログでオバマの大統領選勝利を称賛したことで、多くの人たちは変化の可能性を実際よりも過大に感じてしまった(イランのマフムード・アハマディネジャド大統領ですら、1度はオバマに好意的な言葉を贈ったことがある)。

 もはやカストロに政治的、経済的な改革を実行する気がほとんどないのは明らかだ。民主党の大物ジョン・ケリー上院議員を含め、米議会にもキューバとの関係正常化を自ら進めようという機運はあまり見られない。

 もはやオバマが、物議を醸さずにキューバ政策を転換する方法はほとんど残されていない。キューバ系アメリカ人の渡航禁止を撤廃したり、キューバのブロガーのインタビューを受けるなどして精神的な援助を示したりするくらいだ。

 それ以上を期待するのは、非現実的というものだろう。

──ジョシュア・キーティング
[米国東部時間2010年01月07日(木)15時20分更新]


Reprinted with permission from FP Passport, 8/1/2010. © 2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国外相、EUは「ライバルでなくパートナー」 自由

ワールド

プーチン氏、G20サミット代表団長にオレシキン副補

ワールド

中ロ、一方的制裁への共同対応表明 習主席がロ首相と

ワールド

ドイツ、2026年のウクライナ支援を30億ユーロ増
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 6
    高市首相に注がれる冷たい視線...昔ながらのタカ派で…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    【HTV-X】7つのキーワードで知る、日本製新型宇宙ス…
  • 10
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story