コラム

忙し過ぎる夏休みが子供の可能性をつぶす

2013年10月07日(月)09時00分

今週のコラムニスト:スティーブン・ウォルシュ

[10月1日号掲載]

 長い夏休みが終わって、2学期が始まった。日本中の親たちから安堵のため息が聞こえてくるようだ。そして、子供たちの安堵のため息も──楽しい夏休みが終わってしまったというのに、子供たちがほっとするのはなぜ?

 まず私が日本の夏休みで驚いたのは宿題の多さ。ほかにもポスター製作や作文コンクールへの応募が奨励され、部活の練習にも駆り出される。さらには林間学校や臨海学校、博物館見学にラジオ体操......。課題や行事が盛りだくさんのおかげで、子供を楽しませなければいけないという親たちの負担感は減り、子供も長い自由時間を有効に活用できる──。

 イングランド北部で育った私の子供時代とは大違いだ。夏休みには宿題はなく、大した予定もなかった。共働き家庭が多かったから大人の目もなかった。私は毎朝、自転車で冒険旅行に出掛け、夕方、両親が帰宅する頃に家に戻ったものだ。田舎の親戚のところで過ごすときには、子供だけで原っぱや森、川辺で勝手に遊んでいた。遊びや冒険を考え出すのも、身を守るのも自分たちの責任だった。

 当時を思い出すと、懐かしさとともに疑問が湧いてくる。現代人は子供に最高の体験を与えようと必死だが、子供は本当に最高の体験をしているのか、と。

 私たちは、多くの活動をさせることが子供のためになると考える。大人が目を光らせることで子供を危険から守れるとも考える。だが夏休みとは本来、子供の独立心と責任感を育む絶好のチャンスではないだろうか。分刻みのスケジュールを与えるよりも、想像力と創造力を駆使して退屈さを紛らわせる経験を積ませるべきではないか。

 かつて「休暇」とは仕事をせず、自身の内面や神と向き合う「神聖な日」だった。現代社会では宗教色は薄れたが、日常と違う過ごし方をして経験と理解を広げる大切な時間という考え方は残っている。つまり普段と同じことをするなら、それは休暇とはいえない。宿題や部活で子供を忙しくさせるのは、彼らが別の何かをする機会を奪っているのと同じだ。

■1カ月間、東京から脱出しよう

 夏休みに予定を詰め込むのは、子供の可能性を広げるためだと反論する人もいるかもしれない。だがその中身の大半は学期中の試験対策の延長のように思える。

 子供が時間を有効活用できるように導くべきだという意見もあるだろう。しかし休日とは、子供が創造力や独立心、自信といった生きる上で大切なものを学ぶ機会であるべきではないのか。
では、日本の大都会で夏の暑さに耐えているイギリス人の私が理想とする夏休みとは? まず日本政府が国民に、パリっ子のように1カ月の休暇を取り、海や山で過ごすよう強く呼び掛けてほしい。

 そんなことは不可能だと思うかもしれない。経済が回らなくなる、あるいは子供が貴重な時間を浪費するという理由で。

 だが不可能な話ではない。現にフランス人やドイツ人はそうしている(ヨーロッパ最強のドイツ経済は短時間労働に支えられている。ドイツ人より労働時間が短いのはオランダ人だけだ)。

 時間の無駄遣いでもない。むしろ1泊2日の観光旅行では知ることができない人生の違う側面を、深く長く味わえるだろう。滞在先の地域経済を潤す効果があることは言うまでもない。

 ヨーロッパ流の夏休みが懐かしくなった私は、来年は家族と北海道で1カ月間、のんびり過ごしたいと思っている。ただし国際結婚の家族だから、子供の学習計画には通常以上の配慮が必要になる。

 何事にも大切なのはバランスだ。昼間は子供たちに北海道のシングルモルトウイスキーの歴史と製造法を学ばせ、夜になったら私がヨーロッパ式の「ウイスキー研究」に励もう。これぞ最高のバランスだ! 

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