コラム

レイプ写真を綿々とシェアするデジタル・ネイティブ世代の闇

2013年04月19日(金)14時03分
レイプ写真を綿々とシェアするデジタル・ネイティブ世代の闇

Suebsiri-iStock

 ここ最近、読んでいるだけで、腹の底から怒りと吐き気がわき起こってくるような事件が続いた。いずれにも共通しているのは、「ティーンエージャー」「酒」「集団レイプ」「シェア」というキーワードである。

 3つの事件は、起こった時期はまちまちだなのだが、最近になって判決が下るなどの動きが相次いだもので、その共通性には深く考えなくてはならないことがたくさん詰まっている。

 3つの事件の概要は以下の通りだ。

事件①
 昨年8月、オハイオ州で高校のフットボール選手2人(16歳と17歳)が、パーティーで泥酔した15歳の女子生徒をレイプ。女子生徒の裸身の写真や犯行現場のビデオがソーシャルネットワークにアップされた。最近になって、2人のフットボール選手に有罪判決が下った。

事件②
 昨年9月、カリフォルニア州サンノゼ近郊で16歳の3人の男子高校生が、パーティーで泥酔した15歳の女子生徒を集団レイプ。その後、犯行現場の写真がソーシャルネットワークで広まり、数日後、女子生徒は「人生最悪の日だ」とフェイスブックに書き込んで首つり自殺した。3人の男子生徒は、今年4月になってようやく逮捕された。

事件③
 2011年11月、カナダのノヴァスコシア州で4人の男子ティーンエージャーが、パーティーで泥酔した15歳の少女を集団レイプ。その後、ソーシャルネットワークにアップされた現場の写真は町中に広まっただけでなく、少女には「僕もセックスして」などの誹謗中傷のメールやテキストが届き続けた。少女は重度のうつ状態に陥り、今年4月になって自殺を図る。意識不明が続き、先日家族が生命維持装置を外して死亡。地元警察はいったん捜査を開始したものの、刑事事件ではないと打ち切り。男子ティーンエージャーらはまだ逮捕されていない。ハッカー集団アノニマスが犯人を特定したとし、警察が逮捕に動かなければ身元を明かすと表明している。

 さて、ここで押さえておかなければならないのは、少女たちは集団レイプされるという非常なダメージを受けただけでなく、その後ソーシャルメディアで画像とうわさが広まることによって、その痛手を何度も繰り返し反芻しなければならなかったということだ。

 それは、どんなにつらいことだろうか。ソーシャルネットワークの「シェア」が牙を剥くことがあるとすれば、まさにこうしたケースがそれにあたる。悪いうわさが広まることは昔からあったにしても、ソーシャルネットワークの手にかかると、どんな心身の痛手もまるで塵のごとく扱われ、証拠画像と共に容赦なく広まっていくのだ。

 不思議でならないのは、そもそも男子ティーンエージャーたちがなぜ「シェア」したかである。征服欲を満たされた高揚感からアップしたのか、仲間と一緒に高揚している状態にありがちの判断力の欠如から行ったことなのか。

 ネットに公開すれば足がついて自分が捕まるかもしれないのに、なぜそんなことをするのか、そこのところが不明なのだが、もしレイプの犠牲になった少女をもっと苦しめてやろうという積極的な悪意でなければ、「いつものように」シェアしただけなのだろう。そうすると、集団レイプはもちろん、シェアに対しても何のとがめも感じなかったというわけだ。

 ことに事件①では、警察が捜査を始めても、パーティーにいた他の高校生たちが押し黙ったままで協力せず、当初犯人特定が難航したという。ところが、高校生たちから携帯電話を取り上げたところ、13台から証拠となるやりとりが40万件も出てきたらしい。誰も警察に届けなかったし、シェアを自分のところで食い止めようとした生徒もほぼ皆無だったのだろうと思われる。

 他人の心の痛みもわからず、シェアすべきかどうかの判断力も持ち合わせない、こうした彼らをどう扱えばいいのか。デジタル・ネイティブに育ってくる若い世代に対して、希望が持てなくなってしまいそうだ。

 ただ、明るい材料はある。こうしたシェアを「犯罪」とする動きが出始めていることだ。事件①では、ソーシャルネットワークに画像をアップしたことに対して、少年刑務所での懲役期間が1年追加されている。現在は、「未成年ポルノ画像を広めた」という刑での扱いだが、将来もっと広く未成年によるセクシャルな画像のシェア自体を犯罪としようとする動きも出ている。

 もちろん、普通のティーンエージャーたちの他愛ないやり取りが犯罪になってしまう危険性もあるだろう。だが、最近のような事件を見せつけられると、今のままティーンエージャーたちの判断力が育つのを待ち続けることの方が危険と感じてならない。


プロフィール

瀧口範子

フリーランスの編集者・ジャーナリスト。シリコンバレー在住。テクノロジー、ビジネス、政治、文化、社会一般に関する記事を新聞、雑誌に幅広く寄稿する。著書に『なぜシリコンバレーではゴミを分別しないのか? 世界一IQが高い町の「壁なし」思考習慣』、『行動主義: レム・コールハース ドキュメント』『にほんの建築家: 伊東豊雄観察記』、訳書に『ソフトウェアの達人たち: 認知科学からのアプローチ(テリー・ウィノグラード編著)』などがある。

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