コラム

ノルウェーのリベンジ? オバマ受賞

2009年10月15日(木)11時30分

 先々週、旧ユーゴ諸国訪問記を連載で、と予告したのだが、オバマ大統領ノーベル平和賞受賞!のびっくりニュースが飛び込んできたので、今週はその話に絡んで、少し雑感を。

 就任9ヶ月でまだ具体的な成果のない新人大統領が受賞したのは、やってきたことに対してではなくその公約に評価が集まったからだ、という指摘は、まさにそのとおりだろう。国内の反発や現実的判断に負けずに公約どおり頑張りなさい、というサポートを与えるとともに、公約をトーンダウンさせないようにという、国際社会からのプレッシャーが賞の重みとなって米国大統領に圧し掛かる。
 
 この外からのサポートが、しばしば受賞者を苦境に追いやる。中東問題を巡っては、1978年、米キャンプ・デービッドで和平交渉に臨んだエジプトのサダト大統領とベギン・イスラエル首相が受賞したが、サダトは受賞3年後に暗殺された。国際社会にとって「和平の推進」と見えたことは、現地では「裏切り」に映ったのだ。1994年には、その前年パレスチナの暫定自治を定めたオスロ合意を褒め称えて、イスラエルのラビン首相、ペレス外相とアラファート・パレスチナ自治評議会議長が受賞したが、ラビンは翌年国内の宗教右派に暗殺されたし、ペレス、アラファートはその後和平の意気込みはどこへやら、2000年にはオスロ合意は完全に頓挫して、和平合意以前より対立は悪化している。ノルウェーが準備したオスロ合意で、ノルウェー・ノーベル委員会が決定して賞を与えたのに、この和平交渉のさんざんな結果は、ノルウェーにとってはさぞ悔しいことに違いない。

 さて、今回受賞のオバマ大統領は、中東問題でも果敢に和平の道を提示している。6月にエジプトのカイロで「イスラーム世界との和解」を掲げて演説した際、パレスチナ問題で争点となっているイスラエルの占領地への入植について、新規入植に「ノー」を叩き付けた。本来占領地を自国領土のように扱い、自国民を住まわせることは、国際法に反している。

 オバマ演説は、とりあえず新たな入植地の建設を止めることができれば、和平への活路が開けるかも、との期待を生んだ。演説後に行われた世論調査では、パレスチナ人の対米評価が高まっている。だがこの9月、パレスチナ・イスラエル・米の三者会談では、早くも米国側が、新規入植も仕方ないかも、的なニュアンスをかもし出した。

 米国現職大統領のノーベル賞受賞は、再び和平推進の契機になるかどうか。かずかずの和平への道筋を閉ざしたブッシュ政権の亡霊に、平和外交大国ノルウェーがリベンジしているように、見える。

プロフィール

酒井啓子

千葉大学法政経学部教授。専門はイラク政治史、現代中東政治。1959年生まれ。東京大学教養学部教養学科卒。英ダーラム大学(中東イスラーム研究センター)修士。アジア経済研究所、東京外国語大学を経て、現職。著書に『イラクとアメリカ』『イラク戦争と占領』『<中東>の考え方』『中東政治学』『中東から世界が見える』など。最新刊は『移ろう中東、変わる日本 2012-2015』。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請件数、予想外の9000件減 季調

ワールド

ロ、グリーンランド占領説を一蹴 西側の「二重基準」

ワールド

米、メキシコに麻薬製造施設への軍事作戦容認を要求=

ビジネス

FRBは物価目標達成に注力を、雇用は安定=シカゴ連
MAGAZINE
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
2026年1月20日号(1/14発売)

深夜の精密攻撃でマドゥロ大統領拘束に成功したトランプ米大統領の本当の狙いは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 2
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試掘の重要性 日本発の希少資源採取技術は他にも
  • 3
    イランの体制転換は秒読み? イラン国民が「打倒ハメネイ」で団結、怒りの連鎖が止まらない理由
  • 4
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 5
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 7
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 8
    年始早々軍事介入を行ったトランプ...強硬な外交で支…
  • 9
    母親「やり直しが必要かも」...「予想外の姿」で生ま…
  • 10
    中国、欧米の一流メディアになりすまして大規模な影…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 4
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画を…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    Netflix『ストレンジャー・シングス』最終シーズンへ…
  • 7
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救っ…
  • 8
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広が…
  • 9
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 8
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story