コラム

【ウェブ対談:池田信夫×冷泉彰彦】慰安婦問題の本質とは何か<2>

2015年02月23日(月)10時17分

冷泉 なんでそうなっちゃうんですかね?

池田 外国のメディアも、実は問題そのものを議論しているのではなく、朝日を叩いている安倍さんの周りの極端な右派の人たちを叩いている。誤解している日本人を、誤解している外国メディアが叩いているから、その誤解が定着してしまう。その悪循環がこの20年くらい繰り返されています。

冷泉 それが今、非常に極端になっていますよね。靖国の問題もそうですけど、安倍さんの言動、周囲の人たちの言動をはり合わせていくと、やっぱりサンフランシスコ講和条約を否定しようとしているように見えてしまいます。

池田 そうそう。ニューヨーク・タイムズなんて最初からそういう枠組みで見ようとしているから、その材料を提供するようなもので。安倍さんの他の政策は普通なのに、靖国に行ったことで彼の政策が全部そういう色で見られてしまって、すごく損していると思います。

冷泉 ウォールストリート・ジャーナルなんかも、古い価値観に親しむ安倍さんを、それでは規制緩和ができないのではとか、既得権益層に切り込めないのではとか、そんなイメージで見ていますね。

 どう考えても安倍さんは得していないのですが、日本では右派のイメージを保っていた方が選挙で票が取れるということなのでしょうか。

池田 いや、それはないと思いますよ。安倍さんの場合は、特に不遇の時代に右派の人たちが支援してくれたことがあって、その人たちへの恩返しのために靖国に行ったと言う人が複数います。安倍さん自身は、良くも悪くも常識人。中道派で極端な右派ではない。

 問題はむしろ、自民党内の周りにふわっとした右派的な人たちがいて、安倍さんがそういう人たちに乗っていることですね。彼らが大きな旗印にしているのが憲法改正です。憲法改正の方向性が、靖国と結びつけられると、ろくなことにはならない。戦前に戻るという印象を与えるでしょ。わざわざ憲法改正をやりにくくしている気がします。その点ではやっぱり、今の政権のイメージ戦略は間違っているでしょう。

≪次回<3>に続く≫

プロフィール

池田信夫

経済学者。1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。93年に退職後、国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラ研究所所長。学術博士(慶應義塾大学)。著書に『アベノミクスの幻想』、『「空気」の構造』、共著に『なぜ世界は不況に陥ったのか』など。池田信夫blogのほか、言論サイトアゴラを主宰。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

12月FOMCでの利下げ見送り観測高まる、モルガン

ビジネス

米シカゴ連銀総裁、前倒しの過度の利下げに「不安」 

ワールド

IAEA、イランに濃縮ウラン巡る報告求める決議採択

ワールド

ゼレンスキー氏、米陸軍長官と和平案を協議 「共に取
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 6
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 9
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story