コラム

人口減少時代には「メガシティ」への人口集中が必要だ

2014年05月21日(水)18時31分

 日本の人口はすでに減り始めており、あと30年で3000万人以上減って1億人を割る見通しだ。これに対して「少子化対策」や移民の受け入れなどの話が出ているが、本当に人口減少は困ったことなのだろうか。

 個人の豊かさの基準はGDP(国内総生産)ではなく、一人あたりの所得である。日本経済はこれからゼロ成長に近づくが、一人あたりGDPは今後も毎年1%ぐらい増えると見込まれるので、労働生産性を上げれば生活水準は維持できる。

 しかし人口が減ると、いろいろな格差が拡大する。特に重要なのは、社会保障のゆがみによる世代間格差である。生産年齢人口は毎年1%近く減るので、高齢者の比率が増え、彼らの年金を支える現役世代の負担が重くなる。

 鈴木亘氏(学習院大学)の推計によれば、今の社会保障制度のままだと2025年に国民負担率(税+社会保険料)は50%を超え、2050年には70%に達する。国民所得(純所得)が年率1%で成長するとしても、一人あたり可処分所得は2050年には今より30%減る。このゆがみを是正しないと、現役世代は絶対的に貧しくなるのだ。

 政治的に厄介なのが、地域間格差だ。このほど民間の有識者でつくる日本創成会議は「地方からの人口流出がこのまま続くと、人口の再生産力を示す若年女性が2040 年までに50%以上減少する市町村が896(全体の半分)にのぼる」という推計を発表した。このうち523市町村は人口が1万人を切り、自治体として維持できなくなるだろう。

 創成会議はこれを受けて「ストップ少子化」や、東京一極集中に歯止めをかける「地方元気戦略」などの政策を提案しているが、率直にいってピンと来ない。もちろん人口減少に歯止めをかけることができればいいが、これは無理だ。移民によって無理やり単純労働者を増やしても、平均労働生産性が落ちると一人あたりGDPは下がる。

 日本がこれから考えるべきなのは、誰もが平等に豊かになる社会は維持できないということだ。今までは生産性の高い製造業が日本経済を牽引してきたが、それが新興国に追い上げられ、貿易赤字になった現状では、もう「ものづくり」では生き残れない。

 30年前にはアメリカ政府も、製造業を保護するために日本たたきをやったが、アメリカに残ったのはハイテクやソフトウェアなどの「イノベーション産業」だった。そのコアの部分の雇用は減ったが、シリコンバレーやシアトルなどの中核都市の人口は増え、関連企業が雇用を生み出している。

 資本主義を生んだのは都市だった。それは戦争の続く近世ヨーロッパで、要塞から進化したものだ。戦争に勝つのは経済的に強い都市だから、豊かな都市国家が生き残った。近代国家の強さを支えているのは、こうした都市間競争によるガバナンスだった。産業革命の拠点となったのも、労働者の集まる都市だった。都市の限られた人口を資本で補うために、労働節約的な技術が開発されて機械制大工業が生まれたのだ。

 地域間格差を恐れる必要はない。多くの経済学者が提案するのは、むしろ人口を都市に集中させることだ。ニーアル・ファーガソン(ハーバード大学)は、これからは東京、上海、ムンバイ、リオデジャネイロなど1000万人以上の人口を集めるメガシティの競争によってグローバル資本主義が動くという。

 都市にも高齢化の波は押し寄せてくる。人口減少時代に必要なのは「国土の均衡ある発展」と称して地方に補助金をばらまくことではなく、国の権限を都市に委譲して高齢化時代に対応した効率的なインフラ整備を進め、農村部には投資しないで人口の都市集中を進める戦略である。

プロフィール

池田信夫

経済学者。1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。93年に退職後、国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラ研究所所長。学術博士(慶應義塾大学)。著書に『アベノミクスの幻想』、『「空気」の構造』、共著に『なぜ世界は不況に陥ったのか』など。池田信夫blogのほか、言論サイトアゴラを主宰。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ゴールドマン、米利下げ時期予想後ずれ 中東紛争に伴

ワールド

米政権、低リスク渡航者の入国迅速化制度を再開 業界

ワールド

チリのカスト大統領就任、数十年間で最も右寄りの政権

ワールド

ホルムズ海峡で船舶攻撃相次ぐ、米軍は護衛要請に応じ
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 2
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃に支持が広がるのか
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 6
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」…
  • 7
    「邪悪な魔女」はアメリカの歴史そのもの...歌と魔法…
  • 8
    イランがドバイ国際空港にドローン攻撃...爆発の瞬間…
  • 9
    40年以上ぶり...イスラエル戦闘機「F-35I」が、イラ…
  • 10
    ホルムズ封鎖で中国動く、イランと直接協議へ
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 5
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 6
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 7
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 8
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示…
  • 9
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だっ…
  • 10
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story