コラム

「ケネディ姫」のわがままが日米関係を混乱させる

2014年02月19日(水)12時13分

 共同通信によると、NHKがキャロライン・ケネディ駐日アメリカ大使へのインタビューを申し込んでいったん了承されたが、2月になって大使館が百田尚樹氏(NHK経営委員)の発言を理由に断ったという。これは「大使とワシントンの意向」とのことだが、大使が経営陣の発言を理由にNHKの取材を拒否したのが事実だとすれば前代未聞である。

 大使が問題にしたのは、百田氏が東京都知事選挙の応援演説で東京大空襲や原爆投下を「大虐殺」と呼び、「東京裁判はそれをごまかすための裁判だった」という発言らしい。これは歴史認識として間違っているが、彼の個人的意見であってNHKの見解ではない。こんな理由で政府機関が取材を拒否したら、報道は成り立たない。

 ケネディ大使の暴走は、今に始まったことではない。彼女は1月にも、ツイッターで「米国政府はイルカの追い込み漁に反対します。イルカが殺される追い込み漁の非人道性について深く懸念しています」という意見を表明して話題になった。これは彼女の個人的な意見だったが、のちに国務省がこれを追認した。

 捕鯨は国際条約で規制されているが、イルカ漁についての条約はないので、アメリカ政府が日本のイルカ漁に干渉することはできない。大使のいとこに当たるロバート・ケネディ・ジュニアは、反捕鯨団体「シーシェパード」の弁護士もつとめる環境保護活動家だから、大使はイルカ漁の映画でも見せられたのかもしれない。イルカ漁が残虐だというなら、アメリカ人が牛を年間3500万頭も殺している映像を見たら、彼女は卒倒するだろう。

 昨年12月26日には、安倍首相の靖国神社参拝について、その日の午後にアメリカ大使館が「日本の指導者が近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに、米国政府は失望している」というプレスリリースを発表した。こんな重大な発表が、参拝から6時間足らずで出されたのは異例である。

 この時間はワシントンの深夜だったから、このリリースは本国の了解を得たものとは考えられない(のちに国務省が追認した)。「失望している」(disappointed)というのは同盟国には使わない強い表現で、外交儀礼を知らないケネディ大使が独断で出した可能性もあるのではないか。

 彼女はオバマ大統領の政治任用で大使になったが、外交官の経験はない。その経歴をWikipediaでみると、ケネディ大統領の長女で、ハーバード大学のカレッジを卒業してコロンビア大学のロースクールを出るなど学歴は立派だが、大統領の長女なら事実上無試験だから学歴には意味がない。

 その後は弁護士として活動した形跡もなく、美術館の学芸員やNPOの理事ぐらいしかキャリアのない「兼業主婦」だったが、2008年のオバマの選挙キャンペーンに突如、登場した。そのあとヒラリー・クリントン上院議員が国務長官になった後釜に座ろうとしたが失敗し、今回の駐日大使は、彼女の人生で初めて意味のある仕事だ。

 上院議員になりそこねたのは、ヒラリー(民主党右派)にきらわれたためだろう。ケネディ家は伝統的に左派で、一族にはロバート・ケネディ・ジュニアのような左翼の活動家も多い。オバマ大統領は左派のリーダーだから相性はいいのだろうが、安倍首相との相性は最悪だ。百田発言に対する反発も、安倍氏への嫌悪が原因だろう。

 要するに彼女は「JFKの七光り」以外には何の実績もない「お姫様」なのだ。今までの行動からみると、かなりわがままな性格だと思われるが、大統領の後ろ盾があるので大使館員ではブレーキをかけられない。大使はほとんど名誉職なので大した実害はないが、日米関係にいい影響はない。今後も要注意である。

プロフィール

池田信夫

経済学者。1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。93年に退職後、国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラ研究所所長。学術博士(慶應義塾大学)。著書に『アベノミクスの幻想』、『「空気」の構造』、共著に『なぜ世界は不況に陥ったのか』など。池田信夫blogのほか、言論サイトアゴラを主宰。

ニュース速報

ビジネス

東証とJPXに業務改善命令、CEO「真摯かつ厳粛に

ワールド

11月の独時短制度利用企業、28%に 一部ロックダ

ビジネス

自民・経済対策提言、ポストコロナ研究で基金10兆円

ビジネス

リクルートHDが海外で株式売り出し、総額4000億

MAGAZINE

特集:BTSが変えた世界

2020-12・ 1号(11/25発売)

常識を覆して世界を制した「現代のビートルズ」── 彼らと支える熱狂的ファン「ARMY」との特別な絆

人気ランキング

  • 1

    トランプが要求したウィスコンシン州の一部再集計、バイデンのリードが拡大に

  • 2

    プレステ5がネット販売で「1秒後に売り切れ」、ゲーマーの怒りのツイートがあふれる

  • 3

    「実は誰も会った人がいない」韓国政界で囁かれる文在寅の怖い話

  • 4

    熱烈なBTSファンの娘に、親として言いたいこと

  • 5

    中国メディア「コロナ起源は輸入冷凍食品」 西側は反論

  • 6

    【写真特集】いつかこの目で見たい、大自然が作った…

  • 7

    【香港人の今3】「中国製でないほうが、品質がよくて…

  • 8

    インドで「光るキノコ」の新種が見つかる......地元…

  • 9

    中国TPP参加表明の本気度――中国側を単独取材

  • 10

    習近平、人民解放軍に戦勝を指示「死も恐れるな」

  • 1

    プレステ5がネット販売で「1秒後に売り切れ」、ゲーマーの怒りのツイートがあふれる

  • 2

    次期米国務長官から「車にはねられ、轢かれた犬」と見捨てられたイギリス

  • 3

    「燃える水道水」を3年間放置した自治体を動かした中国の証拠動画

  • 4

    女性陸上アスリート赤外線盗撮の卑劣手口 肌露出多…

  • 5

    熱烈なBTSファンの娘に、親として言いたいこと

  • 6

    11月13日、小惑星が地球に最も接近していた......

  • 7

    中国政府、少数民族弾圧はウイグルに留まらず 朝鮮族…

  • 8

    オバマ回顧録は在任中の各国リーダーを容赦なく斬り…

  • 9

    トランプが要求したウィスコンシン州の一部再集計、…

  • 10

    麻生大臣はコロナ経済対策を誤解している?「給付金…

  • 1

    アメリカ大統領選挙、郵政公社がペンシルベニア州集配センターで1700通の投票用紙発見

  • 2

    半月形の頭部を持つヘビ? 切断しても再生し、両方生き続ける生物が米国で話題に

  • 3

    アメリカを震撼させるオオスズメバチ、初めての駆除方法はこれ

  • 4

    女性陸上アスリート赤外線盗撮の卑劣手口 肌露出多…

  • 5

    アメリカ大統領選挙、ペンシルベニア州裁判所が郵便投…

  • 6

    事実上、大統領・上院多数・下院多数が民主党になる…

  • 7

    プレステ5がネット販売で「1秒後に売り切れ」、ゲー…

  • 8

    世界のワクチン開発競争に日本が「負けた」理由

  • 9

    米爆撃機2機が中国の防空識別圏に異例の進入

  • 10

    トランプでもトランプに投票した7000万人でもない、…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
Wonderful Story
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら
World Voice

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!