コラム

「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生時代、物理の道選んだのは「変な先生」の影響──野村泰紀の人生史

2025年12月29日(月)11時15分


nomura_profile.jpg 理論物理学者、カリフォルニア大学バークレー校教授
野村泰紀(のむら・やすのり)
1974年生まれ。東京大学理学部物理学科卒業、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。理学博士。ラインウェバー理論物理学研究所所長、ローレンス・バークレー国立研究所上席研究員、理化学研究所客員研究員、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構連携研究員。専門は素粒子論、宇宙論。『なぜ宇宙は存在するのか』(講談社)、『95%の宇宙』(SB新書)など著書多数。

 教室で物静かに本を読んでいるというよりは、スポーツ少年だった?

野村 運動は結構好きでしたね。だから「サイエンス少年」ではなかったんですよ。もちろん、数学はできなくはなかったですけど。

それに中学は地元の公立だったので、荒れていたんですよ。「ズボンが太いやつほど偉い」みたいな謎のしきたりもあったし。

 先生は学校ではどんな立ち位置だったのですか。

野村 学校では真ん中ぐらいの序列でしたね。ズボンが太いほど強い証なんですけど、一度、自分の分をわきまえずに太いのを履いていったら、「タイマン」になりました。

 ああ、難癖をつけられて、喧嘩を吹っ掛けられたんですね。

野村 そうそう。それからボコられて、血だらけで帰りました。隣の中学ともめて放火事件になるとか、当時は本当にそういう話がいっぱいありました。僕は不良というわけではなかったけれど、序列には入っていたので、たまに巻き込まれることはありました。

そんな暮らしをしながら中学を終えて、高校に行きます。アメリカの高校は地域の全員が来るけれど、日本は受験があるから、僕が行った高校は中学のようには荒れていませんでした。

 いわゆる進学校に進まれて。どちらでしたっけ。

野村 神奈川の県立柏陽高校です。そこで(硬式)テニスをしたかったんですけれど、高校の部活になかったから軟式テニスをしました。軟式の文化って面白いんですよ。試合では野次り合戦。硬式だったら、打つ時はシーンとなるんですけどね。

それから、神奈川って横浜高校とか東海大相模高校とか強い学校がたくさんあって、そういうところは中学のトップ選手を全国からスカウトしているんです。だから公立高校が試合に勝つのは大変で、熱血顧問のもと朝から晩まで練習しました。

毎日10キロほど走って、39度の熱があっても部活は休めず、当時は部活中に水も飲めませんでした。「人生は根性だ」とずっと言われていましたね。結局、最後は横浜高校に勝って神奈川のベスト4まで行けたので、いい経験になりました。

nomura_highschoolage.jpg

高校時代の野村氏 本人提供

 すごい。文武両道だったんですね。

野村 いえいえ。部活をやっていると勉強なんてほとんどできないんですよ。疲れて寝ちゃうから。でも学校では400人中70番くらいにはつけていました。

 センスが良くて、飲み込みが早かったのかしら。

物理の道を選んだ決め手

野村 初めて模試を受けたのが3年生の春。僕は負けて関東大会に行けなくなったため、早めに引退になって受験の準備を始めました。で、物理にはそれなりに自信があったんですけれど、7点でした。

 ......えーと、何点満点ですか?

野村 100です、100点です。

 後の物理学者が?

野村 だって、何も分かんないですもん。

 悔しかったですか?

野村 まあ、どういうものか知りたくて受けただけだったし、まだ準備もしていないことも分かっていたので。まだ丸1年あるぞと思って。

そうして夏休みになると、高3は部活がないから当然勉強をするんですけど、そこで当時の物理の先生が、ひたすら相対性理論や量子力学の解説をしてくれる特別授業をやったんです。夏の集中講義で2週間みっちり。それが本当に楽しかった。

 わあ、面白いですね。

野村 進学校だから、授業中に受験に出ないことばっかりやると問題になると思うんですけど、だから夏休み中に。たぶんボランティアですよね。彼としては部活の顧問みたいな感覚だったのかもしれない。

「二重スリット実験と観測の話」とか──そんなもん、受験には出ないんですよ。でも話がすごくうまくて、高3で受験の年なのに、物理なんか興味なさそうな学生で教室がいっぱいなんです。たぶん、この経験は僕に結構影響を与えていると思います。で、東京大学の理一(理科一類)に進学します。

 高3の春に物理が7点だった人が、1年で東大に入っちゃったんですか?

野村 そのときはやっていなかっただけだし、受験のテクニックも何も知らない状態でしたからね。

 公立って私立の中高一貫校のような先取り勉強もしないから、現役合格はかなり大変ですよね。塾にも行っていなかったんですか。

野村 高3の途中からは行きました。

 理科一類を選んでいるということは、高3当時から「物理をやっていきたいな」という気持ちは固まっていたのですか。

野村 物理学のような方向というイメージまではしていた気がします。というのも当時ブルーバックスなどで、「DNAのなんとか」よりは「相対性理論」とか「宇宙のなんとか」のような本を読んでいた記憶があるので。

 東大では、1年半の間、学生が点取り競争をして、平均点の高い者から行きたい学科を選ぶという「進振り」がありますけれど、そこで理学部物理学科を選んだのはなぜですか。

野村 やはり「物事の根源を知りたい」という、そちらに当時から「ぼやんと」興味があったんでしょうね。物理の中の細かいことは、まだ知らないですから。

だって僕は、大学に入ってまたすぐにテニスサークルに入っちゃったんですよ。ちょっと前にテレビ出演をした時に「若い頃の写真をください」と言われて実家で探したら、酒を飲んでいる写真しかなかったです。だから、最初は適当でしたね。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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