コラム

「医師の宇宙飛行士」古川聡さん、27年勤務のJAXAを卒業...次のステージも「らしい」場所 7つのキーワードで知る、その功績と人柄

2026年04月03日(金)10時30分

古川さんの退職の事実は会見で初めて公表されました。数日前に古川さんが会見をするという知らせを受けた筆者は「時期的に退職報告だろう」と思いつつ、前回(24年3月)退職した宇宙飛行士の若田光一さんのように、会見では「今後は民間で」等、詳細は伏せるとばかり思っていました。なので、「杏林大学で若手の育成をする」と明確に語られた時に、「よかった」「やっぱり」という気持ちになりました。

というのも、筆者は何度か古川さんにインタビューをしているのですが、「古川さんの印象は『大学教授のような人』」と何度も表現してきたからです。


古川さんと話したり活動を見聞きしたりすると、「こつこつと勤勉で、周囲を温かく見守る」「同僚や後輩に自分の知識を惜しみなく分け与える」「宇宙での科学的発見を少年のような満面の笑みでみんなに話す」「講演に興味を持ってもらうための資料作りは準備万端、かつ場面に応じて工夫をこらす」といった人柄や特長を知ることができます。

実際、古川さんの人となりを語る場面で、大西卓哉宇宙飛行士は「面倒見が良いので、何を聞いてもすごく丁寧に教えてくれる。訓練に関して、自分用の勉強資料を作っていらっしゃるのだけれど、それを惜しみなくメールで送ってくれる」、油井亀美也宇宙飛行士は「ISSでのミッションを見て、本当に誠実に丁寧に仕事をされていたので見習いたい」と話すこともありました。

なので、筆者は「今後、大学で教える予定はありませんか」「JAXAを離れても、宇宙の話や古川さんの経験を広く伝える活動などは続けられますか」といった「大学」や「教育や講演」をキーワードとする質問をたくさん準備して会見に臨みました。

それだけに、今後の新たなステージとして「大学での人材育成」を選んだことにとても納得し、嬉しく思いました。同時に「後輩宇宙飛行士へのノウハウの継承」をJAXA卒業の区切りとしていたことに、古川さんらしい誠実さを感じました。

2. 今後、JAXAとの関わりは?

古川さんは宇宙飛行士人生について「全力で走ってきたという感じ。望むことが全て叶ったわけではありませんが自分でできることはやりきりました」と振り返り、「今後はいわゆる宇宙航空業界を離れることになりますが、JAXAや日本の宇宙開発の発展を心から祈念し、一宇宙ファンとして応援していきたいと思っています」と語っています。けれど、周囲が放っておかないかもしれません。

会見に同席したJAXA理事で有人宇宙技術部門長の松浦真弓さんは、古川さんの人となりについて「最高に素晴らしいところは笑顔。あの恵比寿顔に、私たちはこれまでにどれだけ救われてきたか。それにISSミッションでは、私たちが『あれして、これして』と言う前に終わっていたというくらいスムースだったのが印象的です」と評しています。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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