コラム

「医師の宇宙飛行士」古川聡さん、27年勤務のJAXAを卒業...次のステージも「らしい」場所 7つのキーワードで知る、その功績と人柄

2026年04月03日(金)10時30分

会見で古川さんについて語るJAXA理事で有人宇宙技術部門長の松浦真弓さん

会見で古川さんについて語るJAXA理事で有人宇宙技術部門長の松浦真弓さん 筆者撮影

会見後に筆者が松浦さんにさらに詳しく聞くと、「退職の意向は年が明けてから聞きました。もっと(JAXA内で)ずっと一緒にやっていくと思っていたので驚きましたが、次のステージへの挑戦を応援しています。今、具体的な案というのはありませんが、貴重な経験を還元していただきたいですし、これからも(JAXAに)協力していただくことはあると思います」と、縁が続くことを示唆しました。

また、古川さんの新たな職場となる杏林大学は、25年3~8月にISSに滞在した大西卓哉宇宙飛行士、同年8月~本年1月にISSに滞在した油井亀美也宇宙飛行士の健康管理支援メンバーにも名を連ねています。ISS滞在中から帰還後のリハビリテーションまで身体機能の維持向上を図るべく、専門的立場から運動プログラムを監修したそうです。今後、同大学の宇宙医学分野の研究で古川さんの知見が活かされたり、JAXAと共同研究が行われたりする可能性もあるかもしれません。


3. 医師の宇宙飛行士としての活躍

古川さんは医師のバックグラウンドを持ちます。JAXA宇宙飛行士には、かつての向井千秋さん、古川さん、そして現役の金井宣茂さん、米田さんと、「医師の宇宙飛行士の系譜」が存在します。

古川さんは医師が宇宙飛行士であることの利点として「同乗クルーが安心してくれること」「将来、月や火星探査時代が到来した際、ケガや病気を現場で緊急に処置しなければならないときに実際に役に立てること」を挙げています。

松浦理事は「古川さんは医学と宇宙をつなぐ橋渡しをしてくださった」と振り返ります。実際に古川さんは、生化学実験の手際の良さもさることながら、微小重力下での筋力低下などを医師ならではの観点で詳細に語り、Xや講演会を通して一般向けにも発信しました。

たとえば古川さんは宇宙での身体の変化について、「サイズを測って比べると、ふくらはぎが2センチほど細くなって、ふとももは2〜3センチ細くなり、ウエストは5センチ以上細くなりました。上腕は変わりませんでした。体液が下から上にシフトするためと言われています。身長も測ったところ、1センチほど伸びていました。背骨の間の椎間板が押されていたのが伸びるためと言われています」と説明しています。

さらに「宇宙は『老化の加速モデル』で、身体が固くなるなど自分が80歳になったらこんなふうになるのかと想像できました。一方、地球帰還後に45日間のリハビリプログラムを終えると飛行前とほぼ同じ状態になり、人間の適応能力の高さに驚きました」と実感を込めて「宇宙出張(※古川さんはISS滞在をこのように表現する)」を紹介しています。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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