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カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面を突き破って侵入する力の正体が明らかに
炭疽病菌は現時点で260種以上が報告されており、世界中のほぼすべての作物から被害が確認されています。日本ではとくにイチゴに被害を与える病原菌として知られています。「水跳ね」によって飛散するので広がりやすく、感染すると黒変したり株全体が枯死したりするため、甚大な被害になります。
ちなみに「炭疽病菌」と聞くと、バイオテロに使われて死者が出たこともある致死率の高い「炭疽菌(細菌のBacillus anthracis)」をイメージする人も多いかもしれませんが、「炭疽病菌(主に糸状菌のColletotrichum 属菌)」は植物につくカビの一種なので、全くの別物です。
炭疽病菌やイネいもち病菌は、感染するときに宿主植物表面にアプレッソリアを形成します。するとアプレッソリアは、以下の過程で感染を成功させます。
① 約8メガパスカル(車のタイヤの空気圧の約40倍)にもなる高い膨圧を発生させる。
② この膨圧を利用して、アプレッソリア底部に形成された針状の貫穿糸(かんせんし)が強く押し出される。
③ 宿主植物の硬い表面組織を物理的に突き破り、感染が成立。
アプレッソリアは植物表面に付着した胞子から分化します。内部にグリセロールなどの浸透圧調整物質を高濃度に蓄積することで、周囲との浸透圧差によって水が多量に流れ込み、高い膨圧を発生させます。
つまり、アプレッソリアの細胞壁が、水のような小さな分子は通す一方、グリセロールのような分子量の大きい物質は通さない「半透膜の性質」を持つことで高い膨圧を維持しているのですが、これまではアプレッソリアに特徴的なメラニン(黒色色素)が細胞壁の半透性に寄与すると考えられてきました。もっとも、近年にメラニン欠損変異体でもアプレッソリアは膨圧を形成できることが報告され、膨圧発生のメカニズムは謎として残っていました。
アプレッソリア機能に必須な遺伝子ペアを同定
理研の熊倉直祐上級研究員、白須賢グループディレクター、金沢大の宮澤佳甫助教らは、炭疽病菌を用いて、アプレッソリア形成時に遺伝子発現が上昇する機能が未知の遺伝子をゲノム編集技術によって破壊し、病原性が低下する変異体を探索しました。
その結果、感染に必須な二次代謝物生合成酵素の設計図となっているペア遺伝子(PKS2とPBG13)を同定しました。これらの遺伝子は、イネいもち病菌にも機能的に保存されていました。
さらに、PKS2、PBG13を破壊した炭疽病菌では、いずれもアプレッソリアから侵入菌糸が形成されなかったため、この遺伝子ペアがアプレッソリア機能に必須であることが分かりました。また、浸透圧や原子間力顕微鏡(AFM)を使って膨圧を測定すると、それぞれの遺伝子を破壊した炭疽病菌では、実際に膨圧が低下していることが確認できました。
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