コラム

日本の宇宙開発にとって2024年は「実り多き一年」 イプシロンSロケット燃焼実験失敗とロケット開発の行方は?

2024年12月16日(月)12時00分

もっとも、幸いなことに、一時は燃焼異常を起こしたイプシロンSロケットの第2段モータとシナジーのあるH3 ロケット用の固体ロケットブースタへの影響に関しては、JAXAは11日に「一部の共通点(点火装置であるイグブースタと材料の一部)を含めて、これまでのH3の地上燃焼試験等の開発結果および 4 号機までの飛行結果を再評価したところ、懸念事項はない」と発表したため、H3の今後の打ち上げスケジュールには影響がない見込みです。

ロケット開発には多くの「産みの苦しみ」を伴います。12月は国内初の民間企業単独による人工衛星の軌道投入を目指す民間小型ロケット「カイロス2号」(スペースワン社)の打ち上げも予定されていますが、14日、15日と強風のため打ち上げ延期となりました。

関係者は「ロケット発射場(和歌山県串本町)の上空の風が強く、ロケットは横からの風に弱く破損する可能性があるから」などと説明し、打ち上げは18日に再々設定されました。初号機は今年3月、推進力不足で打ち上げ直後に爆発しており、万全を期して再挑戦しているということです。

政府は2030年代前半までに「官民合わせて年30回のロケット打ち上げ」を目標として掲げています。打ち上げ前の試験での失敗や打ち上げ延期は「悪いニュース」のように聞こえがちですが、「ベストを尽くすための必要な足踏み」と言えるでしょう。来年は、さらに信頼性を増した機体や打ち上げを数多く見守りたいものです。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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