コラム

はるか昔、地球にも土星のような「リング」があった可能性 隕石が落ちた場所の偏りが証拠に?

2024年09月20日(金)21時20分

研究チームは、リング仮説は当時の気候変動を解明するカギにもなり得ると考えています。

オルドビス紀は、7つの時代に細分されています。そのうち、もっとも新しい時代は「ヒルナント期(Hirnantian、約4億4520万年〜4億4380万年前)」と呼ばれており、過去5億年間の中で最も寒かった時期の1つだったことが知られています。けれど、これまでの研究では、ヒルナント期がなぜそれほどまでに寒冷になったのかについては解明されていませんでした。

研究チームは、「リングができたことによって地表に影を落とし、太陽光が遮られ、地球の寒冷化が起こった可能性がある」と指摘します。

赤道にリングが存在した場合、地軸の傾きの影響で冬半球(冬が訪れている側)が影になり、冬の寒冷化が促進されます。衝突によって生成された大気中の塵も、寒冷化に寄与すると言います。この地球規模の寒冷化メカニズムによって、当時は大気中のCO2濃度が高かったにもかかわらず、なぜ激しい寒冷化が起こったのかという謎が解明されるかもしれません。

加えて、リングが消散すると、冷却効果がなくなり、温室効果ガスによる地球温暖化によって通常の地球温度に戻ると考えられます。ヒルナント期の気候変動は、4億6300万年~4億4400万年前頃に急激に寒冷化が起きて、4億4400万年~4億3700万年前頃に急速に温暖になったとされています。地球のリングは、この現象を上手く説明できる可能性があります。また、逆に、リングの存続期間 (最大で約2200万年) を推定できる可能性もあります。

「オルドビス紀には、生物が多様化しました。急速な気候変動は、生命にとっての課題と進化の必要性を生み出します。したがって、リングが気候変動を引き起こしたのであれば、急速な進化も引き起こした可能性があります」とトムキンス教授は語っています。

リングの構造と形状を明らかにし、本当に大きな影を落とすことができるのかなどを調べるためには、今後は数値モデルの専門家らとの協働が必要になりそうです。気候変動への影響については、さらに慎重に検討しなければならないでしょう。

もし、宇宙から飛来した小惑星が作った地球のリングが、その後の生物の進化にまで影響を及ぼしていたとしたら、とてもロマンがありますね。そうでなくても、リングをまとった地球の姿は、一目でいいから見てみたかったですね。

ニューズウィーク日本版 高市早苗研究
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月4日/11日号(10月28日発売)は「高市早苗研究」特集。課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏小売売上高、9月は前月比0.1%減 予想外

ビジネス

日産、通期純損益予想を再び見送り 4━9月期は22

ビジネス

ドイツ金融監督庁、JPモルガンに過去最大の罰金 5

ビジネス

英建設業PMI、10月は44.1 5年超ぶり低水準
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイロットが撮影した「幻想的な光景」がSNSで話題に
  • 4
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 5
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 6
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 7
    カナダ、インドからの留学申請74%を却下...大幅上昇…
  • 8
    もはや大卒に何の意味が? 借金して大学を出ても「商…
  • 9
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story