コラム

地球内核の回転スピードが落ちている? 自転とうるう秒の謎にも関連

2023年01月31日(火)17時05分

今回、北京大の教授となったシャオドン・ソン博士らの研究チームは、90年代と00年代に発生した地震波データを調べました。その結果、09年以降は、それまでは内核部分で変動していた地震波の移動時間にほとんど変化がなくなっていたことから、過去10年間は内核の独自の回転がほぼ停止し、マントルと同じ速度で回転している可能性が示唆されました。同じ結果は地球全体で観測されたため、研究チームは内核表面の局所的な変形による現象ではないと主張しています。

さらにソン博士らは、60〜70年代の地震データと比較したところ、内核の回転は約70年の周期を持ち、約30年ごとに回転の向きを変えていた可能性があると提唱しています。これは、地球の磁場や1日の長さが70年周期を持っていることにも関連していそうだと言います。

内核の回転は、外核の流体運動によって発生する磁場で推進され、マントルとの重力効果でバランスを取っていると考えられています。もっとも、内核が特別な回転を停止したとしても、災害に直結するわけではないと研究者らは語ります。

私たちが日々意識している1日の長さには、月の大きさの75%の直径を持つ金属球である内核が深く関わっているようです。最近では、地下核実験は国際的な批判があるため行なわれません。地球深部の研究を進めるためには、予測できない地震の発生に頼らざるを得ず、この先の進展には時間がかかるかもしれません。けれど、今後、内核の研究が進めば、地球内部が地球表層の気候や生命体にどのように影響を与えているかも、知ることができるかもしれません。

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プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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