コラム

地球内核の回転スピードが落ちている? 自転とうるう秒の謎にも関連

2023年01月31日(火)17時05分
地球の内核

地球最奥部にある内核は、地球の自転とは異なるスピードや方向で回転することも可能(写真はイメージです) AlexLMX-iStock

<北京大の研究チームは「過去10年間で地球内核の回転が止まり、逆回転している可能性がある」と指摘した。自転とは異なる内核の回転は、1日の長さを調整する「うるう秒」が起きる原因とも考えられている>

地球内部は、ゆで卵のような構造をしています。

私たちは卵の殻にあたる「地殻(プレート)」の上で生活しています。半径約6400キロの地球で、地殻はわずか5~70キロです。薄い地殻の下にあるのが、白身にあたる「マントル」で、地下2900キロまでを高温で柔らかい岩石が占めています。マントルに包まれているのが黄身にあたる半径約3500キロの「核」で、液体の外核と固体の内核に分けることができます。

地球の最奥部の内核は、熱い液体に浮かぶ鉄球のような構造をしているので、地球の自転とは異なるスピードや方向で回転することも可能です。

北京大の研究チームは、地震波の測定から「過去10年間で内核の回転が止まり、さらに逆回転している可能性がある」と指摘しました。研究成果は、1月23日付の「Nature Geoscience」に掲載されました。

1日の長さの調整方法である「うるう秒」が起きる原因にも、内核の「自転とは異なる回転」が関わっていると考えられています。「地球の中心と時間の謎」を紹介しましょう。

「午前8時59分60秒」の意味

地球は、太陽の周囲を365日で公転し、北極点と南極点を結ぶ地軸を回転軸として24時間で自転しています。

もっとも、地球の公転周期は、正確には365.2422日(365日5時間48分46秒)です。そのため、4年に1度のうるう年を設けて、2月に1日、「うるう日(2月29日)」を足しています。さらに細かいずれを是正するために、「うるう年は100で割れる年には導入しないが、400で割れる年には導入する」というルールもあります。

「うるう日」と似た名前のものに、「うるう秒」があります。1972年の第1回から2017年の第27回までは、1月1日か7月1日の午前9時(日本時間)の前に午前8時59分60秒を特別に設けて、1秒足して実施しました。

うるう秒は、1年の日数を調整して公転周期を補正するうるう日とは異なり、1日の長さを調整して自転周期を補正するものです。

紀元前2世紀、ギリシアの天文学者ヒッパルコスは、「1日の昼と夜を平等に24分割する」ことを最初に唱えました。後に、その60分の1が1分、さらに60分の1が1秒となりました。

けれど、300年に1秒の誤差しか生じない高精度の「セシウム133原子時計」が1955年にイギリスの国立物理学研究所 (NPL) で開発、実用化されると、実は地球の回転速度にはムラがあり、1日の長さは一定ではないことが分かってきました。

そこで、「地球が1回転するのにかかる時間(1日)」について、原子時計を基準とする高精度な測定時間(協定世界時、略号:UTC)と、天体観測による従来の24時間(世界時、略号:UT1)の差が、0.9秒を上回ったり下回ったりした際に、協定世界時にプラスマイナス1秒して補正することにしました。これまでの27回のうるう秒では、すべて1秒足す補正を行っています。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:日本株の「ニューノーマル」、PER20倍

ビジネス

中国銀行融資、7月は20年ぶり減少

ワールド

IEA、今年の石油供給予想を上方修正 OPECプラ

ビジネス

アングル:米国で法整備進むステーブルコイン、導入の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が教える「長女症候群」からの抜け出し方
  • 3
    【クイズ】アメリカで最も「盗まれた車種」が判明...気になる1位は?
  • 4
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 5
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 6
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 7
    【徹底解説】エプスタイン事件とは何なのか?...トラ…
  • 8
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 9
    トランプ「首都に州兵を投入する!」...ワシントンD.…
  • 10
    イラッとすることを言われたとき、「本当に頭のいい…
  • 1
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 2
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの母子に遭遇したハイカーが見せた「完璧な対応」映像にネット騒然
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 5
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医…
  • 6
    【クイズ】次のうち、「軍用機の保有数」で世界トッ…
  • 7
    職場のメンタル不調の9割を占める「適応障害」とは何…
  • 8
    イラッとすることを言われたとき、「本当に頭のいい…
  • 9
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 10
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story