コラム

目撃者続出! 流星と、流星より明るい火球にまつわるトリビア

2022年08月23日(火)11時25分

日本で最も有名な火球は、2020年7月2日の午前2時32分に関東地方の空に出現したものです。満月(マイナス13等級)よりも明るい火球は西から東へと移動し、その様子は多くの市中にあるカメラ――自動観測カメラ、定点観測カメラ、防犯カメラなど――によって記録されました。また、火球出現の数分後には衝撃波による爆音が響きました。

火球の明るさから流星物質は大きいと考えられ、隕石が地上に残っていることが期待されました。アマチュア天文家らによる流星観測網「SonotaCo Network」は各地で撮影された映像を分析し、「隕石があるならば、千葉市花見川区や習志野市、船橋市、佐倉市周辺で見つかる可能性が高い」と推定しました。

同日朝、千葉県習志野市内のマンションの住民が自宅前で石の破片を拾いました。4日には船橋市内でも「怪しい石」が見つかりました。調査分析を担当した国立科学博物館がこれらの石をガンマ線測定したところ、宇宙空間で宇宙線に晒された証拠となる放射性同位体が検出されました。さらに半減期から、落下は最近であることが分かりました。

隕石は、最初の発見場所から「習志野隕石」と名付けられました。国内で発見された隕石の53例目で、火球と共に観測されたのは初めてのことです。

さらに特筆すべきことは、習志野隕石の起源は、軌道が確定し小惑星番号を与えられた50万個超の小惑星の中で、2020 LT1、2008 WH96、2019 NP1の3つに絞られていることです。火球が多数の地点で観測されたため、地球に飛来するまでの軌道も高精度で計算されたためです。

今回の八丈島上空付近を通った火球は、各地で撮影されたために火星と木星の間の小惑星帯からやってきたと解析されています。ただ、隕石が残っていたとしても海中に落下していると考えられています。

惑星、人工衛星、飛行機との見分け方

国立天文台には、「見慣れない明るい光を見た」という問い合わせが日頃から多く寄せられるそうです。後に、自分が見たものが何だったかを調べるためには、少なくとも①見た日時(可能ならば「秒」の単位まで)、②どのくらいの間見えていたか、③見えた方向、④周りの星と比べた明るさ、⑤移動の速さ、の情報が必要と言います。

流星や火球と間違われやすいものに、惑星、軌道上の人工衛星、飛行機、人工衛星の落下などがあります。

ほとんど動かずに数分以上見え続ける光は、惑星の可能性が高いでしょう。軌道上の人工衛星は、日の出の数時間前と日の入り数時間後に、星の間をゆっくり動く光の点として見えます。たいていは数十秒から数分間、見え続けます。国際宇宙ステーション(ISS)は、人工衛星の中でも特に明るく見えることがあるそうです。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ベトナム国会議長、「違反行為」で辞任 国家主席解任

ビジネス

ANAHD、今期18%の営業減益予想 売上高は過去

ワールド

中国主席「中米はパートナーであるべき」、米国務長官

ビジネス

中国、自動車下取りに補助金 需要喚起へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 8

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story