コラム

有力AI企業が東京に拠点を設ける理由

2024年04月18日(木)11時20分
(写真はイメージです) Louie Martinez-Unsplash

(写真はイメージです) Louie Martinez-Unsplash

<なぜ今、AI関係者の熱視線が東京に集まっているのか? AI新聞編集長の湯川鶴章氏が解説する>

*エクサウィザーズ AI新聞から転載

ChatGPTを開発したOpenAIが東京に拠点を設けた。一方著名AI研究者が起業の場所に選んだのも東京だ。ここにきてなぜ東京がAI業界から注目されるのかを考えてみた。

OpenAIはアジア初のオフィスを東京に開設したと発表した。今後日本語に最適化されたカスタム言語モデルを提供するという。英語以外の言語に最適化されたモデルを開発するのは異例で、恐らく初めて。

一方で今のAIブームの引き金となった論文「Attention is all you need」の共著者の一人、Llion Jones氏は起業する場所として東京を選び、sakana.aiというスタートアップを立ち上げた。

なぜ今、AI関係者の注目が東京に集まるのか。幾つか理由が考えられる。

1つ目は、日本政府が米国のAI企業に対して好意的なこと。世界のAI業界には今、3つの拠点が存在する。米国、欧州、中国だ。

米国と中国は激しいライバル関係にある。欧州は米国とライバル関係にあるというより、消費者保護の立場から米国に厳しい姿勢を取っている。

そんな中、日本政府は米国のAI企業に理解のある態度を取っている。国際政治の場でも日本を味方につけることができれば何かと有利に展開できるかもしれない。そう考えたのか、OpenAIのSam Altmanが同社CEOとして最初に表敬訪問した外国政府が日本だったといわれている。

2つ目は、日本では比較的少ない給与でAI人材を雇用できるという利点がある。日本のエンジニアの年収平均は約591万円であるのに対し、サンフランシスコでは平均で155,000ドル(約2.6倍の所得格差)というデータがある。日本で会社を設立するほうが、低コストで優秀なエンジニアを雇用できるわけだ。

3つ目は、日本の著作権法がAI研究に適していることが挙げられる。著作権者の許諾を得ずとも、AIによる著作物を使った学習が広く認められているからだ。海外諸国の多くが何らかの制限を設けている中、日本ほど自由にAIの学習が行える国は少ない。ディープラーニングの3人の父の一人と言われる著名AI研究者Yann LeCun氏は、日本は機械学習パラダイスと絶賛しているほどだ。同氏は、「著作権法の大事な考え方は、大衆の利益を最大化することで、コンテンツ保有者の利益を最大化することではない」と語っている。

4つ目は、外国人エンジニアには日本のアニメの文化などが好きな人が多いということ。先日もインドから来たエンジニアに話を聞いたら、アニメなどの日本文化が好きで来日したという。sakana.aiの創業者の一人、David Ha氏は「日本は訪問したい国のトップ。多くの研究者が日本に来る機会を望んでいる」と語っている。

sakana.aiの創業者の一人とみられるXのアカウントは、「日本が世界のAIの強力な研究開発拠点になるだろう」と語っている。

果たして、そうなると期待していいのだろうか。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

仏GDP、第3四半期確報は前期比+0.5% 速報値

ワールド

東南アジアの洪水、死者183人に 救助・復旧活動急

ビジネス

電気・ガス代支援と暫定税率廃止、消費者物価0.7ポ

ワールド

香港火災、死者128人に 約200人が依然不明
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 7
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 8
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story