コラム

アマゾン破竹の勢いと、忍び寄る独禁法の影

2017年08月23日(水)10時16分

利益を消費者に還元しながら成長してきたベゾス Shannon Stapleton-REUTERS

アマゾンの勢いが止まらない。売上も株価も急成長を続けており、米国のEC(電子商取引)市場の1/3は、アマゾンが占めているという報告もある。一方で、ここまで強くなると、独禁法に抵触するのではないかという意見も出てきた。

なぜ強いのか

アマゾンはなぜこんなに強いのだろうか。アマゾンには2つの大きな戦略の方針があるといわれている。1つは顧客中心主義。もう1つは、弾み車だ。

弾み車とは、ミシンなどの機械に使われる部品で、わずかな力で回転速度を短時間に大きく変化させることが可能な仕組みだ。収益が上がれば、それを株主に配当するのではなく、商品の値引きやサービス改善の投資に使う。そのことにより、顧客が増え、売上増に弾みがつく。弾みがついても、収益はすべて値引きやサービス改善に向け続ける。弾み車のようなプロセスを繰り返して、一気に成長してきたわけだ。

atlas_ryN9LvsPZ@2x.png

顧客第一というモットーの下、投資家への配慮は後回しだ。四半期ごとの決算に一喜一憂する投資家が多い中で、アマゾンのCEOのジェフ・ベゾス氏は「顧客を大事にすれば、長期的には株価は上がる」という信念を押し通してきた。売上高が上昇しても儲けを値引きと投資に使うので、上のグラフを見ても分かるようにわずかな利益は横ばいのままだ。

atlas_rkayf_vwW@2x.png

アマゾンの株価の推移のグラフを見ていただきたい。実際に2015年辺りから株価が急速に伸びている。株式公開時点でアマゾン株を買い、ベゾス氏の言葉を信じて持ち続けた人の株は、10万円が6000万円以上になっているわけだ。

もはやECだけの会社ではない

アマゾンというと仮想書店、インターネットモールというイメージがいまだに強いが、儲けだけに注目すれば、クラウドコンピューティング事業のAWS(アマゾンウェブサービス)が、アマゾンの稼ぎ頭である。先に書いた通り、アマゾンはECで儲けたお金をそのまま値引きやサービス向上に使う。ECで大きく儲けているわけではない。

【参考記事】ヤマト値上げが裏目に? 運送会社化するアマゾン
【参考記事】日本でもAmazon Echo年内発売?既に業界は戦々恐々

AWSは2006年のサービスイン以来、倍々ゲームで成長を続けており、市場シェアは34%で、ダントツ首位。2位のマイクロソフト、3位のIBM、4位のグーグルという3社のシェアを合わせてもわずか24%。アマゾンには届かない。データのストレージだけではなく、最近ではAI(人工知能)の機能もクラウド上で提供し始めており、今後一層の事業拡大が見込まれている領域だ。

アマゾンはまた倉庫、物流の会社でもある。180の倉庫、28の集配センター、59の配達ステーション、65の宅配ハブを持っている。また8万台のロボットが倉庫の中を行き来し、4000台のトラック、20着以上の飛行機が倉庫間を行き来している。アマゾン上で商品を販売する業者は、アマゾンの倉庫、物流業務に対して、手数料を支払っているようなものだ。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、米中貿易巡る懸念が緩和

ビジネス

米国株式市場=大幅反発、米中貿易戦争巡る懸念和らぐ

ビジネス

米国株式市場=大幅反発、米中貿易戦争巡る懸念和らぐ

ビジネス

米労働市場にリスク、一段の利下げ正当化=フィラデル
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇敢な行動」の一部始終...「ヒーロー」とネット称賛
  • 4
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 9
    ウィリアムとキャサリン、結婚前の「最高すぎる関係…
  • 10
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル賞の部門はどれ?
  • 4
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story