コラム

人工知能が加速させるボイス革命

2016年06月06日(月)17時00分

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 一方でAppleはMeekerリポートで「iPhoneは山を超えた」と評されているし、音声技術に関して関しても最近は目立った発表がない。米国のテック系メディアやブログの中には「Appleは過去の企業になりつつある」という論評がちらりほらり出始めている。

 しかし実は、スマホの次のスマートホームの時代には音声が基幹技術になることを、故スティーブ・ジョブズは生前に既に見抜いていた。Appleのスティーブ・ジョブズの伝記に、ジョブズがあるとき「AppleTVの未来が見えた!こうすればいいんだ!」と叫んだというくだりがある。伝記の中では、それがどのような技術なのかは明らかになっていないが、後にジョブズの後継者となったTim Cook氏が、ボイスコマンド機能をAppleTVに搭載する構想を明らかにしている。

 ジョブズは、なんとしても音声技術を取り込みたかったようだ。ジョブズが手がけた最後の大型買収はsiriだった。ジョブズは病院からsiriのCEOに直接電話をかけて、Apple傘下に入るよう口説き落としたのだという。

 そのジョブズの方針は現在もAppleの中で健在のようだ。Cook氏率いるAppleは、siri以降にもAIや音声のベンチャーを次々と買収している。前出のVocalIQ社もAppleが買収している。このほか、iPhoneのカメラで顔の43の筋肉の変化を読み取り、感情を認識する技術を持つEmotient社など、表面に出てこないような買収を繰り返しているようだ。これらの技術のほとんどすべてがiPhoneの対話エンジン技術やスマートホーム機器に取り込まれていくことになるだろう。

 Appleは、どこよりも先に製品を出すのではなく、二番煎じと揶揄されながらもその完成度の高さで最終的にシェアを奪うという戦略をこれまで取ってきた。音声技術やスマートホームの領域で表立って目立った動きをまだしていなくても、無視できるプレーヤーではない。

 さてスマホの次のパラダイムの覇権争いでは、私の予想通りにAmazonが逃げ切るのか。それともGoogle、Facebook、Appleが逆転するのだろうか。

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プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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