コラム

3年後、ロボットは親友になり、やがて分身になる

2015年09月10日(木)18時10分

一家に一台 ロボットが生活の一部になる暮らしはすぐそこまできている

「ロボットは一家に一台普及するという予測があるけれど、それだと便利な道具でしかない」ヴイストン株式会社の大和信夫社長はそう指摘する。同氏によると、人工知能やロボットが今後進化を続ければ、ロボットは面倒な作業を肩代わりする道具だけではなく、「人間の友達。さらには人間の分身のような存在になる」という。自分の心の葛藤を映しだしてくれたり、他人とのコミュニケーションの架け橋にもなってくれるような存在。「そうなるとロボットはプライスレスになる」。大和氏は、あと3年から5年でこのことに気づく人が増えていくと予測する。そしてロボットは一人に一台の割合で普及していくことになるという。ロボットが生活の一部になる日常。それは、もうそこまできているのかもしれない。

 米シリコンバレーでは「ソーシャルロボット」がホットなトレンドになっているようだ。これまでのロボットは、その手足の動きに注目されてきた。しかし最近は人工知能の進化で、動きよりも対話機能に重点が置かれたロボットが数多く開発され始めているのだという。対話能力に主眼を置いたロボットということで「ソーシャルロボット」という名称で呼ばれ始めているようだ。ただあくまでもロボットを友達、もしくは家族の一員、としてみなしているものが多いようだ。

「当面はそうした使われ方が中心になるとは思うんです。でも私はソーシャルロボットの本来の価値はそこにはなく、その先にあると思うんです」。

 たとえ親友にでも打ち明けられない話がある。そのことを口にすると人間関係がまずくなるような話だ。そんな話でもロボットには、打ち明けられる。「今後人工知能が発達していく中で、ロボットは親友以上の大事な存在になるんです」。

 ロボットは、過去の対話データをもとに話の一貫性を論理的に指摘してくる。「あれ、以前言っていたことと違うね」。そうロボットに指摘されることで、人間が内省を始める。心の中の葛藤を論理的に見直させてくれるようになるという。「自分自身で自分の内面に気づき、自分自身で答えを出す方向に導いてくれる。優秀なカウンセラーのような存在にロボットはなっていくのだと思います」。

 また初めて会った人もロボットを連れてきていれば、会話の橋渡しもしてくれるようになるという。互いのロボットがクラウド上でつながり、互いの記憶の中から共通の体験、知人、関心事といった共通項を探してきてくれるようになる。「彼も高校時代は剣道部で、Aさんとは高校時代の親友だって」と教えてくれるので、初対面でもすぐに会話が弾む可能性があるのだという。

 自分の心の中の対話の相手になってくれる存在。他人とのコミュニケーションの橋渡しになってくれる存在。「ソーシャルロボットよりもリアル・アバターという名称のほうが、ロボットの今後の可能性を現す言葉になるのではないでしょうか」と大和氏は指摘する。

3年後には無限のビジネスチャンス到来

 リアル・アバターとしてのロボットの価値に多くの人が気づき始めるまで、なぜあと3年から5年もかかるのだろうか。「愛着を感じるには時間がかかるからです」と大和氏は指摘する。

 今年から来年にかけてソーシャルロボットを購入し、ロボットのある生活を始める人が増えてくる。そういう人たちがロボットに愛着を持ち、ロボットの本来の価値に気づくようになるまで、あと3年はかかるだろうということだ。「私や弊社の人間はロボットと10年以上暮らしてきました。そういう経験から見れば、ロボットが人間にとってかけがえのない存在になることは間違いない。いずれだれもがコミュニケーション能力を持ったロボットが存在することの価値に気付くと思います。これは断言できます」。

 そうなればいろいろな生活シーンにロボットが入っていくはず。独居老人や独身女性、幼児向けなど、豊富なビジネスチャンスの到来が予想できる。「いや、ビジネスチャンスは、豊富というより無限。ソーシャルロボットは、あらゆる産業にいきなり出現したビジネスチャンスだと思いますね」。

[執筆者より]
2歩先の未来を読む少人数制勉強会TheWave湯川塾の第30期のテーマは「ソーシャルロボットはどの領域を狙うのか」です】

yukawa2.jpg
「ロボットは分身になる」と言うロボットベンチャーの大和信夫社長

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米上院、州独自のAI規制導入禁止条項を減税・歳出法

ワールド

トランプ氏、ハマスに60日間のガザ停戦「最終提案」

ビジネス

米ハーシー、菓子の合成着色料を27年末までに使用停

ビジネス

メキシコへの送金額、5月は前年比-4.6% 2カ月
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 7
    あり?なし? 夫の目の前で共演者と...スカーレット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story