コラム

ローマ教皇フランシスコが手を差し伸べない、1億人の中国人クリスチャン

2019年11月26日(火)18時30分

ただフランシスコ教皇が、現在まさに「痛みの中」で「苦しんでいる信者」に対して明確なメッセージを送らないのには不満がくすぶる。ほかでもない香港と台湾、そして中華人民共和国の「ヒツジ」たちだ。

教皇は就任以来、「宗教は人民を毒害する麻薬」であり、「カトリックは西欧列強の中国侵略の先兵だ」との歴史観を持つ中国政府と「密談」を重ねてきた。台湾の信者たちを裏切って共産中国と国交関係を結ぶのではないかと取り沙汰されたバチカンの動きに対し、台湾から反発が起きた。

それでも教皇は昨秋、中国政府と彼らが任命した司教の正統性を追認することで合意した。その後、民主主義を求める香港の若者たちと市民が抗議に立ち上がって半年がたったが、教皇から彼らへの支援のメッセージは届いていない。

日本のカトリック人口は44万人であるのに対し、地下教会信者を含めた中国のクリスチャンは1億人に迫る勢いを見せている。習近平(シー・チンピン)政権から苛烈な弾圧を受けている地下教会の中国人クリスチャンも教皇からの救いを待っているはずだ。しかし、教皇は決して「内政干渉」しない。引き続き「裏取引」を進めるためだろう。

<本誌2019年12月3日号掲載>

【参考記事】ローマ教皇フランシスコが長崎・広島訪問 爆核兵器廃絶訴え
【参考記事】カトリック教会をよみがえらせた法王フランシスコの慈悲

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12月3日号(11月26日発売)は「香港のこれから」特集。デモ隊、香港政府、中国はどう動くか――。抵抗が沈静化しても「終わらない」理由とは? また、日本メディアではあまり報じられないデモ参加者の「本音」を香港人写真家・ジャーナリストが描きます。

プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

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