コラム

キム・カーダシアンの「キモノ」に怒った日本人よ、ジンギスカンの料理名を変えて

2019年07月16日(火)11時15分

チンギス・ハンはモンゴル民族の英雄だ(ウランバートル) RENTSENDORJ BAZARSUKH-REUTERS

<米タレントの矯正下着名を撤回させた日本人が、他民族の英雄を料理の名前に冠するのはダブルスタンダードではないか>

どんな体形にもフィットする矯正下着ブランドに「Kimono」というブランド名を付けて販売する予定だ──と、アメリカの有名タレント、キム・カーダシアンが6月25日に1億4000万人ものフォロワーを持つ自身のインスタグラムで表明すると、たちまち日本から「総攻撃」に遭った。

まず日本の伝統文化の拠点であり、着物産業を抱える京都市が門川大作市長名で「着物は日本の伝統的な民族衣装であり、暮らしの中で大切に受け継がれ、発展してきた文化だ」と再考を促した。

政治家も黙っていなかった。世耕弘成経済産業相が「しっかりと審査するよう米国特許商標庁に伝えている」と呼応。ネットでは商標登録申請に反対する署名の数がうなぎ上りに増えて13万人を超え、ついにカーダシアンは「慎重に考えた末、ブランドは別の新しい名前で申請する」と、ブランド名の撤回に追い込まれた。

【参考記事】キム・カーダシアンが「キモノ」を盗用⁉ 日本人女性の抗議で炎上

私は今回の「キモノ騒動」で声を上げた日本の一般人と識者に対して、実に素晴らしい行動を取った、と最大の賛辞を送る。それと同時に、来年の東京オリンピック・パラリンピック開催を控え、他者の文化に敬意を払う機運が高まってきている日本で、ぜひこれを機に見直してほしい食べ物の名称がある。日本にしかない名物料理「ジンギスカン」だ。

コロコロコミック事件

料理は至ってシンプルで、羊肉を鉄鍋で焼いて食べるだけ。問題はその名である。ジンギスカンことチンギス・ハンはモンゴル帝国の始祖で、世界帝国を建立した英雄だ。日本の大相撲で活躍する横綱らを輩出するモンゴル国は、「チンギス・ハンの国」だと自他共に認められている。中国のモンゴル族もまた「チンギス・ハンの子孫」を称しているし、中国政府もそれを認めている。

モンゴルだけではない。中央ユーラシアのトルコ系諸民族であるカザフ人やウズベク人もまたチンギス・ハンの後継者を名乗っており、「ジンギスカン」という言葉もトルコ語なまりに由来するとの説がある。

そして、モンゴル人もトルコ系の人々もただ単に「チンギス・ハンの子孫」を血統上の理念に即して自任しているのではない。彼らは「チンギス・ハン」という言葉を聞いただけで胸が躍り、精神的高揚感に包まれる。1917年のロシア革命、そして1949年に中華人民共和国が成立するまで、ユーラシア各地の遊牧民はほぼ例外なく「チンギス・ハンの子孫」たちに統括されてきた。

端的に言えば、モンゴル人にとってのチンギス・ハンは、日本人にとっていわば「万世一系」の存在である天皇家と全く同じであり、料理の名前にしてはいけない神聖な存在なのだ。

プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏 、 ホルムズ海峡に多くの国が軍艦派遣と

ビジネス

イラン情勢注視続く、FRB金利見通しも焦点=今週の

ワールド

イスラエル、レバノンと数日内に協議へ ヒズボラと戦

ワールド

北朝鮮の金総書記、多連装ロケット砲の発射訓練視察=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製をモデルにした米国製ドローンを投入
  • 2
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目のやり場に困る」衣装...「これはオシャレなの?」
  • 3
    有人機の「盾」となる使い捨て無人機...空の戦いに革命をもたらす「新世代ドローン」とは?
  • 4
    機内で「人生最悪」の経験をした女性客...後ろの客の…
  • 5
    イラン攻撃のさなか、トランプが行った「執務室の祈…
  • 6
    ファラオが眠る王家の谷に残されていた「インド系言…
  • 7
    「筋肉はモッツァレラと同じ」...なぜウォーミングア…
  • 8
    「映画賞の世界は、はっきり言って地獄だ」――ショー…
  • 9
    ホルムズ封鎖で中国動く、イランと直接協議へ
  • 10
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 5
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 6
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 8
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切り…
  • 9
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 10
    有人機の「盾」となる使い捨て無人機...空の戦いに革…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story