コラム

「汚職の祭典」オリンピックの透明性を高める改革の必要性──今後の国際イベント実施への影響

2023年03月27日(月)16時26分

東京五輪・パラリンピックを巡る汚職事件で、高橋治之・大会組織委員会元理事が受託収賄罪で起訴された REUTERS/Issei Kato

<今回の事件を電通のせいに全て押し付ける形で、根本的な問題解決を軽視し、臭いものに蓋をするだけなら、問題は何度でも繰り返されることになるだろう。>

オリンピックは平和の祭典と言われているが、東京オリンピック・パラリンピックのスポンサー契約などをめぐる汚職事件により「汚職の祭典」の側面がフォーカスされることになってしまった。世界最大のスポーツイベントであるオリンピックの誘致には様々な不透明な人々が暗躍していると言われ、その華やかな舞台に影を落としてきている。

オリンピックに関する最も有名な汚職話は開催候補地選びを巡る賄賂であろう。国際オリンピック委員会は1984年ロサンゼルス大会からスポンサーのライセンスや放映権の商業化などの膨大な資金が巡る一大興業となる道を選んだ。なぜなら、五輪の成功の陰で招致した都市が莫大な借金を負うことになり、なかなかテレビ等で放映されないなどの問題が生じたからだ。

その状況を打開するために改革するために改革を行なった存在が電通であった。この改革によって多くの人々がテレビでオリンピックを見られることになった。そして、招致した都市もスポンサーのお陰で多額の借金を回避した。その点からはこの改革の試みは成功したと言えよう。

各オリンピックで、利権を巡って様々な疑惑が浮上する

一方、その利権を巡って様々な疑惑が浮上することになった。これはある意味必然的なことだった。

直近でも2002年のソルトレークシティ冬季オリンピック - IOC委員の一部が、オリンピック開催地の選定において、贈収賄や票の売買などの不正行為を働いたとされており、委員長が起訴・有罪判決を受けている。

また、2016年リオデジャネイロ夏季オリンピック - オリンピック組織委員会の元幹部が賄賂等受領で逮捕されており、リオデジャネイロ市長やオリンピック組織委員会の元幹部なども汚職の容疑で逮捕された。更に、2018年平昌冬季オリンピック - 平昌オリンピック組織委員会の委員長であった李明博元大統領が、オリンピック開催地の決定に関連して、贈収賄や不正行為の容疑で起訴されている。

2021年開催の東京オリンピックでも、組織委員会の高橋治之元理事が大会のスポンサー契約をめぐって紳士服大手のAOKIホールディングス前会長らから総額5100万円の賄賂を受け取る受託収賄罪を起こしている。この手のビジネスに口利き業は発生するものであり、同オリンピックでも典型的な汚職が行われることになった。

G7を含めた国際イベント開催に非常に大きな影響を与えかねない

筆者が考えるに、これはオリンピック大会の仕組み自体が引き起こす構造的な問題だと言える。そのため、このイベントが立場を利用して儲けようとする人々にとっては一大ビックイベントであろうことは疑う余地はない。

ただし、今回の東京オリンピックを巡る一連の逮捕劇の中で、今後のオリンピック開催だけでなくG7を含めた国際イベントなどの国内展開を図る上で、国際的に非常に大きな影響を与えかねない事柄が生じたように感じている。

それはテスト大会に関連する業務の入札をめぐる談合事件で、組織委員会元次長や電通の元幹部らが独禁法違反で逮捕されたことだ。

一連の報道では、オリンピックを巡る汚職事件のように報道されているが、その性格は上述の典型的な汚職事件とはかなり性質が異なるものだと考えるべきだ。筆者はこの事件について報道に出ている内容についてはその妥当性に若干の疑問を持っている。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

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