コラム

シリアで勢力拡大する反中テロ──ウイグル独立派武装組織の危険な進化

2025年08月12日(火)09時52分

TIPの行方

TIPは、シリア暫定政府の不安定な統治構造や宗派間対立を利用し、活動範囲を拡大している。HTSの統治に不満を持つ戦闘員や外国戦闘員を吸収する可能性があり、内部の分裂がさらなる暴力の引き金となるリスクがある。宗派間暴力への関与は、シリアの社会的安定を損なう要因であり、暫定政府の統治能力に対する試練となっている。

また、国際的には、TIPの新疆ウイグルでのジハード戦略は、中国に対する直接的な脅威である。仮に、今後シリア国内で中国の影響力が高まれば、パキスタンで起こっているような反一帯一路的な暴力が発生することも考えられる。


アフガニスタンや中央アジアへの戦闘員の移動は、地域の安全保障に対する新たなリスクを孕む。タリバンや他のテロ組織との連携が深まれば、TIPの活動範囲が拡大し、国際的なテロネットワークに組み込まれる可能性が考えられる。

TIPは国連安保理の制裁対象であるが、シリア暫定政府への支援が意図せず、TIPに利益をもたらすリスクが考えられる。軍事訓練や給与支払いの一部がTIPの戦闘員に流れ込む可能性があり、制裁の効果的な実施が課題である。

今日、TIPはシリアのHTS主導の暫定政府の枠組み内で活動を継続し、新疆ウイグルでのジハードを掲げる新たな戦略を展開している。海上戦闘訓練、宗派間暴力への関与、アフガニスタンとの連携強化など、組織の戦術的・戦略的進化が見られる。

しかし、戦闘員数の評価のばらつきやシリアの不安定な情勢が、活動に不確実性を与えている。国際社会は、TIPの動向を注視し、シリア暫定政府への支援がテロ組織に流れないよう、制裁措置の厳格な運用を強化する必要がある。

TIPがシリアやアフガニスタンを拠点に中央アジアや新疆での活動を活発化させる可能性があり、地域および国際的な安全保障に対する脅威として警戒が求められる。

プロフィール

和田 大樹

株式会社Strategic Intelligence代表取締役社長CEO、清和大学講師(非常勤)。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論など。大学研究者として国際安全保障的な視点からの研究・教育に従事する傍ら、実務家として海外進出企業向けに政治リスクのコンサルティング業務に従事。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

インド経済は底堅い、油断は禁物=財務相

ビジネス

アングル:法人開拓に資本で攻勢のメガ、証券市場リー

ワールド

韓国大統領、北朝鮮に離散家族再会へ検討求める

ワールド

ベトナム中銀、成長優先明示 今年の与信は19─20
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 3
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 4
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 5
    MITの地球化学者の研究により「地球初の動物」が判明…
  • 6
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 7
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 8
    1日1000人が「ミリオネア」に...でも豪邸もヨットも…
  • 9
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 10
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 6
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 10
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story