コラム

「沈黙は金」を押し付けるワンチームならいらない

2020年01月11日(土)13時30分
石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)

ラグビー日本代表のようにさまざまなルーツを持つ人々が互いに認め合い、助け合う「ワンチーム」なら大歓迎 Issei Kato-REUTERS

<日本人になる条件として、意見を言わないで風習や前例に従うことを突き付けられた苦い経験>

しばらく時間がたったが、ラグビーワールドカップは、本当に大成功を収めた。令和に入ってからの最も明るいニュースの1つだ。海外から日本にやって来たラグビーファンとメディアが、世界に日本の大会運営の素晴らしさやホスピタリティーを大いに広めてくれた。まさに日本と世界をつないだ素晴らしい大会だった。

前回のコラムで、さまざまなダイバーシティと個人、㆒人一人を尊重したコミュニケーションの重要さについて書いた。個人の相互理解の次に大事なのは、組織や社会が「ワンチーム」になることだ。過度な個人主義で勝手な行動を際限なくされては、秩序や社会は保てない。

ただ、イランという海外にルーツを持つ日本人である私はこの「ワンチーム」というスローガンに、実は少し複雑な気持ちを持った。なぜなら、しゃべらないこと、意見を言わないで風習や前例に従うことが、日本人になるための条件としてたびたび突き付けられてきたからだ。「沈黙は金」を強要され、息苦しさにあえいできた経験はなかなか忘れられない。

郷に入っては郷に(黙って)従えの「ワンチーム」だとしたら、とても怖い。滅私奉公や和を尊ぶという価値観が行き過ぎると、自分の可能性や世界を狭め、新しい人や新しいやり方を拒んでしまうリスクがある。私はそれを心配している。今回のラグビー日本代表のように、さまざまなルーツを持つ人々が、互いに認め合い、互いに助け合うための自己犠牲の美しさを意味する「ワンチーム」なら大歓迎だが。

押し売りサービスはもう要らない

私は「元外人」だからという理由だけでなく、世界中のさまざまな国の人と交流して友人になることができる。これはビジネスシーンの営業においても重要なスキルだ。

日本企業で「沈黙は金」を乱用し言論統制をする人は、社外の営業スキルゼロでもなぜか給料が高い。そのような人が高い給料をもらっている日本では、解決型の営業マンを育てるのはとても難しい。達成不可能な目標を押し付け、成功事例を水平展開――と、クライアントが求めてもいないのに無駄に売り付けてくる駄目セールスマンを量産してしまう。もう日本にそんな押し売りサービスを買う余裕も体力もない。

営業拡大は、減点ではなく加点を採点基準にする体質改善をしなくてはならない。イランにも古くからの格言やことわざが多くあるが、「沈黙は金」と同じ意味のことわざはすぐに思いつかない。「自分ができること、与えられた能力を精いっぱい鍛えて、最大限活用しなさい」という逆の意味のことわざは存在するが。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ネットフリックス、広告付きプラン利用者が4000万

ビジネス

アングル:ミーム株復活に歓喜といら立ち、21年との

ビジネス

ジャクソンホール会議、8月22─24日に開催=米カ

ビジネス

米国株式市場=最高値更新、CPI受け利下げ期待高ま
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 9

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 10

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story