コラム

浜田宏一内閣官房参与に「金融政策の誤り」を認めさせたがる困った人たち

2016年11月20日(日)11時30分

内閣官房参与の浜田宏一氏 Issei Kato-REUTERS

<日本経済新聞が掲載した内閣官房参与の浜田宏一氏へのインタビューが、予想外の反応を引き起こしている。浜田参与が、金融緩和によるデフレ脱却を否定したという解釈だが、これはあまりにもバカバカしい>

浜田参与へのインタビュー記事に予想外の反応

 イェール大学名誉教授で内閣官房参与の浜田宏一氏は、国際的にその業績を認められた偉大な研究者であり、また今日の日本経済の「導師」とでもいうべき地位にある人物だ。筆者もまた学生時代からいままでうけた学恩は計り知れない。ところで最近、浜田参与のインタビューを日本経済新聞が掲載した(11月10日朝刊、ネット掲載はこちら)。この記事が予想外の反応を引き起こした。それは浜田参与が、従来の主張である金融緩和によるデフレ脱却を否定したという解釈である。これはあまりにもバカバカしい見方である。

 浜田参与のインタビューを素直に読めば、金融緩和でアベノミクス当初1,2年は成功していたが、その後、消費増税や国際情勢の不安定化で、金融緩和だけでは不十分であり、減税を中心とした財政政策が求められているとするものである。どこにも金融緩和の効果がないとか、いままでの日本銀行の政策が間違いだったなどとは微塵も言及はない。

 そもそもこのインタビューを最後まで読めば、浜田参与は、日銀が「買うものがなければ」という条件つきで外債購入をすすめている。これは金融緩和がデフレ脱却に効果が「ない」という人の発言ではない。効果が"ある"から外債購入も選択肢に入るのだ。

 ところが一部の論者やメディアの中では、先ほど指摘したように、浜田参与があたかも量的緩和などの金融政策がデフレ脱却に失敗し、その考えを改めるという趣旨としてこのインタビューを解釈している。曲解に近く、その読みのゆがみに驚くばかりである。だが、このバイアスのかかった読解には筆者は多少の心当たりがある。

 以下は、筆者が2004年に発行した『経済論戦の読み方』(講談社)に以下のように書いた。


「より現実的に考えれば、貨幣発行益を利用した減税政策として、企業負担の社会保険料の減額などが有効であろう。このような工夫された財政政策と組み合わされば、インフレターゲット政策は確実な効果を上げるはずだ。これは伝統的なポリシーミックス(財政と金融の合わせ技)である。そしてインフレ期待へのコミットメントをより具体化するためには、金融政策の運営フレームワークとしてインフレ目標を導入した上で、長期国債の買い切りオペ拡大を中心とした、より一層の量的金融緩和政策を推し進めなければいけない。デフレは本質的には貨幣的現象であり、1890年代の英国におけるデフレも、1930年代におけるグローバル・デフレも。それらを解消に導いた主たる要因は、大胆な金融政策の実施であった。(略)私はこのように、デフレ脱却のためには財政・金融政策のコントロールを重視している」。

 いまの日本銀行はインフレ目標をすでに導入して、他方で長期国債買い切りオペの大幅な増額も行われている。ちなみに『経済論戦の読み方』には、不動産や株式の購入などオペ範囲の拡大や、またマイナス金利の導入などの政策オプションも提言されている。このような財政と金融のポリシーミックスの提言に対して、当時、エコノミストのリチャード・クー氏が、「国内のリフレ派は財政出動に嫌悪感がある」とした批判を寄せてきた(クー氏と筆者の論争の経緯は、拙著『不謹慎な経済学』講談社、などを参照のこと)。

 いまの私の引用にあるように、財政政策の「工夫」は必要だが、財政政策と金融政策を両方行えと、「嫌悪感」など微塵も表現することなく書いているのだ。「嫌悪感」として(間違って?)解釈する余地があるとしたら、財政政策の「工夫」、つまり減税や社会保険料の負担減などのオプションを提起したぐらいしか筆者には思いあたるところがない。

プロフィール

田中秀臣

上武大学ビジネス情報学部教授、経済学者。
1961年生まれ。早稲田大学大学院経済学研究科博士後期課程単位取得退学。専門は日本経済思想史、日本経済論。主な著書に『AKB48の経済学』(朝日新聞出版社)『デフレ不況 日本銀行の大罪』(同)など多数。近著に『ご当地アイドルの経済学』(イースト新書)。

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