最新記事

統一教会

なぜ統一教会は今も「大きな影響力」を持っているように見えるのか【石戸諭ルポ前編】

JUDGMENT DAY

2022年9月22日(木)11時05分
石戸 諭(ノンフィクションライター)

もっとも、彼らの全盛期にあって、日韓トンネルには福田ですら賛意を示すことがなかった。

その後、梶栗らは福田から派閥を引き継いだ安倍晋太郎と関係を深めていった。「毎月会って統一運動について説明」しており、晋太郎もそれに応えるように教団票の配分をしていたと報道された。関わりは息子の晋三以上のものがあったと言っていいだろう。

現職首相と元旦に会い、次期首相候補と毎月会談し、長期政権を築いた中曽根康弘とのコネクションも持っていたのが、当時の統一教会や「友好団体」だった。

だが、たった一つの団体の意向が通るほど政界は単純なものではない。

政治学者、中北浩爾の『自民党「一強」の実像』によれば、自民には友好団体が2016年時点で実に500以上あり、グループ分けがされ、それぞれに対応する委員会が設けられている。

日本医師会のように独自に候補を擁立し、医療政策に深く関わる団体もある。統一教会は神道政治連盟などと共に保守系宗教団体の一部を構成してはいたが、「本流」の存在ではないのだ。

ここぞというタイミングで自民党政治家に圧力を依頼することはできたのだろうが、そこまでだ。梶栗は中曽根以降の日本政治を評して「神が準備された日本における基盤が、崩壊していきました」という言葉を残している。

彼らの希望は晋太郎首相の誕生だったが、巧妙な政治駆け引きによって、次期首相を後継指名できる状況を作り上げた中曽根がそんな願いを考慮するわけもなく、後継首相は竹下登に決まる。勝共連合も存在感は薄れていった。

統一教会の秘書が地方議員に

当時の勝共運動を知る自民党関係者はこう述懐する。

「統一教会自体は気味悪い韓国の宗教という印象で、警戒していた。だが、歴代総理の経済指南番とも言われた木内信胤氏も勝共連合には賛同しており、付き合うのはいいという感覚だった」

この時代以降、彼らのロビー活動は迷走を続ける。1990年代は自民党リベラル系議員、2000 年代には野党第1党だった民主党にも接近している。

2004年には「AERA」が鳩山由紀夫と統一教会系団体の関係を報じている。同年に東京都内で開かれた「救国救世全国総決起大会」で鳩山は中曽根と共に登壇し、小山田秀生(当時の統一教会などのトップ)を、こう持ち上げてみせた。

「国を思う気持ちは民主党も同じだ。小山田さんには手取り足取り薫陶を頂いている身」

2009年に発足した鳩山政権には、勝共連合系の雑誌で「親しくさせて頂き、応援を頂きました」と語る亀井静香も入閣していた。昨今の基準に照らし合わせれば、自民党並みに「関係」がありそうなものだ。

だが、鳩山本人の認識ではそうではないらしい。2009年は、統一教会の関連会社が霊感商法の捜査を受けて、当時の会長が辞任にまで追い込まれた年である。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 9

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 10

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中