最新記事

ミャンマー

3つの矛盾が示す、ミャンマー軍事政権の邦人拘束と「ずさん捜査」

Slipshod Accusations

2022年8月29日(月)15時15分
北角裕樹(ジャーナリスト)

暴走する国軍との交渉

戦闘は北西部のザガイン管区やチン州、東部のカヤー州やカレン州など全土に拡大。各地で少数民族武装勢力と協力して一撃離脱のゲリラ戦を展開する民主派勢力に対し、国軍は戦力の分散を迫られて苦戦している。

国軍は民主派の兵士を追うのではなく、代わりに付近の村を焼き打ちし、住民を拘束・殺害するなど手段を選ばない作戦を取っている。都市部でも民主派とみられる勢力が、軍や警察の関連施設やインフラ設備を手製爆弾などで攻撃。国軍の下で働く公務員らが銃撃される事件が多発している。

国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、政変以降の戦闘で避難した住民は約86万人。市民団体の調べでは、約1万5200人が政治犯として拘束された。

今年7月下旬には、NLDの元国会議員ピョーゼーヤートーら政治犯4人の死刑が執行された。民主派勢力はこれに激怒し、紛争が一層激化。

久保田が拘束された当日にはヤンゴン中心部の市役所裏で爆発事件が発生し、厳戒態勢が敷かれていた。武装兵士や警官のみならず、多数の私服捜査員や密告者が配置されていたといわれている。

そんななかでは短時間のデモですら危険だ。悪化する現地の状況について世界の関心が薄れていることに危機感を持っていた久保田は、こうした状況を知りつつ危険を承知で現場に向かった。

現在、40年以上のミャンマー外交の経験がある丸山市郎・駐ミャンマー大使らが解放を求め折衝を続けている。しかし内戦が泥沼化し、国際的孤立を深める国軍の指導部は、国際社会の説得に耳を貸さなくなってきている。

解放までは簡単ではない道のりだが、日本国民が不当に拘束されている事件であり、粘り強く交渉するしかない。

20240625issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年6月25日号(6月18日発売)は「サウジの矜持」特集。脱石油を目指す中東の王国――。米中ロを手玉に取るサウジアラビアが描く「次の世界」とは?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国人民銀、1年物MLF金利据え置き 差し引き55

ビジネス

中国利下げ、国内外の制約に直面=人民銀系紙

ワールド

来日のNZ首相、経由地で専用機故障 民間機で移動

ワールド

原油先物は小幅安、米消費者需要の後退や中国指標待ち
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:姿なき侵略者 中国
特集:姿なき侵略者 中国
2024年6月18日号(6/11発売)

アメリカの「裏庭」カリブ海のリゾート地やニューヨークで影響力工作を拡大する中国の深謀遠慮

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「珍しい」とされる理由

  • 2

    FRBの利下げ開始は後ずれしない~円安局面は終焉へ~

  • 3

    顔も服も「若かりし頃のマドンナ」そのもの...マドンナの娘ローデス・レオン、驚きのボディコン姿

  • 4

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開する…

  • 5

    米モデル、娘との水着ツーショット写真が「性的すぎ…

  • 6

    水上スキーに巨大サメが繰り返し「体当たり」の恐怖…

  • 7

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆…

  • 8

    なぜ日本語は漢字を捨てなかったのか?...『万葉集』…

  • 9

    サメに脚をかまれた16歳少年の痛々しい傷跡...素手で…

  • 10

    メーガン妃「ご愛用ブランド」がイギリス王室で愛さ…

  • 1

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 2

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 3

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 4

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 5

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「…

  • 6

    カカオに新たな可能性、血糖値の上昇を抑える「チョ…

  • 7

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…

  • 8

    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬…

  • 9

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…

  • 10

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっ…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 4

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 5

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 6

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 7

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 9

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 10

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中