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裏切り、内輪もめ、スキャンダル、失言...韓国・大統領選挙の大混乱

Right Lags in Korean Race

2022年1月12日(水)17時11分
ネーサン・パク(弁護士、世宗研究所非常勤フェロー)

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劣勢を巻き返した「共に民主党」の李(写真)と「国民の力党」の尹との戦いの行方は CHUNG SUNG-JUNーPOOLーREUTERS

勝者がどちらであれ、次の大統領は民主化以降の韓国の歴史上、国会議員経験がない初の大統領になる。国政での経験は、韓国政界ではさらに高い地位を目指す上での必要条件と見なされる。大統領の座を狙う者にとって、国会は資金と票を集めるマシンを構築する場になるからだ。

だが、李と尹はいずれも自前の集票組織を持たない。そのため、それぞれ既存のマシンを借用する羽目になったが、操作の仕方は対照的だ。

公認候補に選ばれた尹はスタートダッシュを見せた。昨年11月後半時点の支持率は、一部の世論調査で李に2桁の差をつけてリードしていた。

こうした事態を受けて、李は党内を掌握し、選挙対策委員会首脳部をスリム化。古参議員を退け、意思決定プロセスを単純化した。議席数が絶対多数に迫る共に民主党は「李政権」の姿を示すべく、公的支出の大幅拡大や労働者保護重視など、李の公約の一部を既に法制化している。

その一方で、李は有能でビジネスフレンドリーな政策通というイメージをつくることに成功した。YouTubeで人気の株式分析番組に出演した際には、再生回数600万回以上を記録した。大半の世論調査で、李はより優れた経済手腕が期待できる候補として尹に先行している。

それに対して、尹の借り物のマシンは炎上中だ。

当初、尹は「100の争点のうち99で意見が異なるとしても、政権交代が必要だという点で一致するなら団結すべきだ」という主張の下、アンチ文政権の各派から成る「マンモス陣営」を結集させた。構成するのは従来の保守派、女性蔑視的な不満から保守政党に票を投じ始めた若年男性層、そして国民の力党の支持に転じた元リベラル派だ。

有権者へのアピールも下手で失言連発

だが3派は協力し合うどころか、激しく争った。

保守的な若年男性の支持を集めて、昨年6月に36歳で国民の力党代表に就任した李俊鍚(イ・ジュンソク)は、尹と個人的に近しい東南部・慶尚北道出身者の伝統的保守派と大々的に衝突した。ベテラン政治家の金漢吉(キム・ハンギル)が率いる元リベラル派は、党の枠外でグループを結成。新たな保守系政党の足場づくりとみられ、尹が大統領選に勝利すれば、国民の力党の乗っ取りに乗り出すことも考えられる。

より有能な候補者なら各派をなだめることができただろうが、尹はそうではなかった。おまけに有権者へのアピールも下手だ。「一日一失態」と揶揄されるほど失言が多く、「貧乏人や教育のない者は自由が何かも知らない」「単純労働はアフリカ人の仕事」と言い放ってきた。

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