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宇宙開発

ジェフ・ベゾス対イーロン・マスク 宇宙開発をめぐる大富豪の戦いは、ベゾスの負け?

2021年9月7日(火)18時10分
竹内一正(作家、コンサルタント)
ブルーオリジン

今年7月、ブルーオリジンの初の有人飛行を終えてポーズを取るベゾス(左から2人目)Joe Skipper-REUTERS

<世界長者番付で首位を争うアマゾン創業者ジェフ・ベゾスと、スペースXを率いるイーロン・マスクの戦いは、宇宙開発競争でも激しさを増している。『TechnoKING イーロン・マスク 奇跡を呼び込む光速経営』の著者、竹内一正氏が、宇宙開発をめぐる2人の戦いを分析する>

月着陸船の契約をめぐり対立する大富豪

ベゾスの宇宙開発企業「ブルーオリジン」は、スペースXがNASAから独占受注した月着陸船の契約について、企業選定のプロセスに問題があったと米会計検査院に訴えた。だが、それが退けられると、今年8月に連邦裁判所への提訴に踏み切った。

NASAは月面への有人着陸計画「アルテミス」を進めており、月面と月周回軌道を往復する宇宙船にスペースXの「スターシップ」が今年4月に選ばれた。29億ドル(約3000億円)の大型契約で、しかもスペースX1社の独占となった。

この入札には、ブルーオリジンはノースロップ・グラマン、ロッキードマーチン、ドレイパー社との4社連合を作って臨んだ。さらに軍需企業のダイネティックス社がシェラネバダ社と組むなどして、スペースXに対抗したが及ばなかった。

入札の際にスペースXは29億ドルを提示し、さらにイーロン・マスクは、「開発費の半額以上を自社で負担する」と明言した。予算の米議会承認に苦労するNASAにとって、マスクの申し出は大歓迎だった。

こうして月着陸船の契約を獲得しスターシップ開発のギアを上げたスペースXだったが、そこに水を差したのがジェフ・ベゾスだ。

米会計検査院に契約の異議を申し立てたが、それが却下されると今度は連邦裁判所にNASAを提訴した。

しかも、世界一の金持ちベゾスは切り札を切ってきた。月着陸船の開発費に関し「20億ドル(約2200億円)を負担する」と公表し世間を驚かせた。これはマスクの真似だったが、NASAにとってはありがたい申し出だった。現在は裁判所の判断待ちの状況である。

スペースXの衛星インターネット事業「スターリンク」は8兆円の価値がある

ベゾスは、スペースXの衛星インターネット事業「スターリンク」についてもケチをつけた。

スペースXのスターリンクは、地球の低軌道に多数の通信衛星を打ち上げて、世界中のどこでも高速インターネットが使えるようにする事業だ。

スペースXは総計約1万2000基のスターリンク衛星をファルコン9で打上げる計画で、2020年8月には米国北部でベータ版サービスを開始した。通信速度は50Mbpsで、接続機器の初期費用が499ドル、月額料金は99ドルだ。スターリンク衛星は最終的には約4万2000基になる壮大な計画で、世界の情報格差を解消できると期待の声が上がっている。

地球全体で見ると、インターネットが使えないエリアは少なくない。その上、地震や台風などの大規模災害時に携帯基地局がダメになり、ネットもスマホも使えない事態が度々起きてきた。

しかし、そんな時でも衛星を使ったスターリンクだと問題なくインターネットが使え、救助や生活支援にも大変役に立つ。潜在的な需要は莫大にある。

それを裏付けるように、スターリンク事業の価値は「810億ドル(約8兆5000億円)」とモルガンスタンレーは高い評価を付けていた。

現在スペースXのスターリンクの利用者数は約7万人で14カ国に及び、衛星は約1500基が稼働している。

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