最新記事

サイエンス

「乱交」で種の境界を乗り越えるサル

2018年4月25日(水)18時30分
クリスティン・ヒューゴ

ゴンベ国立公園で研究対象となったアカオザルとブルーモンキーの雑種「ジミー」 Maneno Mpongo- Gombe Hybrid Monkey Project 

<生き物が異なる種との間に雑種を産み始めるのは、しばしば環境変化のしるしであるという。このサルたちにいったい何が起こったのか>

タンザニアのゴンベ国立公園に生息するサルのなかには、自分と種類が違うサルとでも交尾する者がいる。アカオザル(上の写真)とブルーモンキー(下の写真)の間に、雑種が産まれていることがわかったのだ。

Red-Tailed_Monkey,_Uganda_(15587657375).jpg
アカオザル(ウガンダ) Rod Waddington

Blue_monkey_(Cercopithecus_mitis_stuhlmanni)_pair.jpg
ブルーモンキー(ケニア) Charlesjsharp

フロリダ・アトランティック大学(FAU)のケイト・ドワイラー教授(人類学)は144匹のサルの糞便を集め、DNAを分析した。約15%がアカオザルとブルーモンキーの雑種だった。さらに母方からのみ受け継がれるミトコンドリアDNAを調べたところ、すべてのサルが、アカオザルのメスのDNAを受け継いでいた。

霊長類に関する国際学術誌「International Journal of Primatology」に発表された研究のかなで、ドワイラーは「種を越えた交尾が頻繁に行われている」と結論づけた。「アカオザルとブルーモンキーが交尾し、生まれた雑種はどちらのサルとも交尾する」

雑種の形成には諸説あり、いつ、そしてなぜ動物が異なる種と交尾をするのか推測することは難しい。

環境の変化によって同種の相手を見つけにくなり、他の種の動物と交尾する可能性が高まることはある。だがドワイラーが調査した雑種化したサルの場合は、同じ種の相手に不自由していなかった。

異なる外見もお構いなし

場合によっては、異種との交尾によって、環境変化に適した子孫が産まれることもある。

たとえば、ハイイログマとホッキョクグマの雑種であるグロラークマは、氷のない環境で暮らすハイイログマの特徴をいくつか持つが、同時にホッキョクグマ並みに大きく、毛色が薄い。コヨーテとハイイロオオカミの雑種であるコイウルフも、両方の特徴を併せ持っている。

通常、動物は同じ種の動物と交尾する。異なる種と交尾をすると、繁殖に失敗する場合もあるからだ。だからアカオザルやブルーモンキーのようなサルは、交尾相手を間違えないよう種によって特徴のある顔立ちをしていると思われてきた。

ところがこの2つの種は、繁殖力のある子孫を産むことができる上、外見の違いも気にしていない。

このサルたちの間で「乱交」が始まったのは、数百年前とも数千年前ともいう。「異種間の交尾はしばしば、環境が変化するときに起こる。この先何が起こるのか興味深い」と、ドワイラーは言う。

(翻訳:栗原紀子)


202404300507issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年4月30日/5月7日号(4月23日発売)は「世界が愛した日本アニメ30」特集。ジブリのほか、『鬼滅の刃』『AKIRA』『ドラゴンボール』『千年女優』『君の名は。』……[PLUS]北米を席巻する日本マンガ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 9

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 10

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中