最新記事

米海軍

なぜ米海軍は衝突事故を繰り返すのか

2017年9月7日(木)20時00分
トム・カレンダー(米ヘリテージ財団シニアフェロー、軍事専門家)

伊豆半島沖でコンテナ船と衝突した米海軍のイージス艦「フィッツジェラルド」(6月18日) Toru Hanai- REUTERS

<8か月で4件のワースト記録、しかもすべてが横須賀を拠点とする第7艦隊に所属する船ばかり。いったい何が起こっているのか>

米海軍はここ2カ月半、平時に航行中だった洋上艦の衝突事故が相次いだ。過去41年間で最悪だ。

6月の米イージス艦「フィッツジェラルド」と8月のイージス駆逐艦「ジョン・S・マケイン」(以降、マケイン)は、いずれも太平洋西部で通常の「単独航行」を実施中に民間船舶と衝突し、乗組員17人が死亡した。

それだけではない。2月には米海軍のイージス巡洋艦「アンティータム」が横須賀市沖で座礁、5月にはミサイル巡洋艦「レイク・シャンプレイン」が日本の公海上で韓国漁船と衝突していた。8カ月の間にこれだけ事故が相次げば、米海軍の洋上艦の即応力や運用能力を疑問視する声が上がるのも当然だ。

【参考記事】米駆逐艦衝突、艦隊一時停止で太平洋での防衛が手薄に

さらに気がかりなのは、事故を起こしたすべての艦船が、神奈川県の横須賀基地に拠点を置く前方展開海軍部隊(FDNF)、第7艦隊に所属していたことだ。

マケインの衝突事故を受け、米海軍は即座に3つの対応を取った。

■事故原因や安全性を確認するため、世界各地に展開する全艦隊に24時間の「運用停止」を指示した

■60日以内に洋上艦隊の運用や訓練、人員、装備を包括的に見直し、とくに事故を起こした第7艦隊に対して徹底検証するよう指示した

■第7艦隊のジョセフ・アーコイン司令官を、統率力に疑問が生じたとして解任した

真摯な対応だが、これで十分とは言いがたい。

アメリカ国民の多くは、なぜ「世界最高の海軍」が基本的な操船や航行でこれほどひどい事故を繰り返すのか、理解できずにいる。GPS(全地球測位システム)やレーダーなど新型技術を搭載した駆逐艦なら、簡単に衝突を避けられるはずではないか。

【参考記事】トランプ政権の最後のとりでは3人の「将軍たち」

だが海軍、とくに第7艦隊には、事故を起こしそうな兆候がたくさんある。

「基本中の基本だった」

海軍上層部は、艦隊の即応力が低下していると繰り返し警告してきた。米議会や海軍が作った複数の報告書も、海上任務の長期化や、訓練不足、兵士の過労、メンテナンスの遅れについて警告している。

海軍による事故調査で、衝突を起こしたマケインやフィッツジェラルドの乗組員に業務上の過失が見つかるのは間違いない。だが、第7艦隊そのものを徹底的に調査しない限り、艦隊が弱っている本当の原因は明らかにならないだろう。

海軍上層部による報告書や警告は、主に国防予算の削減による艦船の老朽化を問題視してきた。だが事故が多発する最大の原因は、基本的な操船や航行をこなせる乗組員が減ったことだ。

米海軍太平洋艦隊のスコット・スウィフト司令官は事故当時の状況について、「基本運用の基本」だったと言った。なぜ海軍はそんな状況で衝突事故を起こすほど落ちぶれたのか。

【参考記事】「トランプ大統領が命令すれば、米軍は中国を核攻撃する」米太平洋艦隊司令官

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国経済8月は減速、生産・消費が予想下回る 成長目

ワールド

中国は戦時文書を「歪曲」、台湾に圧力と米国在台湾協

ワールド

米中マドリード協議、2日目へ 貿易・TikTok議

ビジネス

米FTCがグーグルとアマゾン調査、検索広告慣行巡り
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 3
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 4
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    【動画あり】火星に古代生命が存在していた!? NAS…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中