最新記事

米海軍

米駆逐艦衝突、艦隊一時停止で太平洋での防衛が手薄に

2017年8月22日(火)15時20分
ライアン・ボート

衝突で横っ腹に大穴が開いたミサイル駆逐艦「ジョン・S・マケイン」 Ahmad Masood-REUTERS

<今回の事故は米海軍にとって大きな痛手だ。北朝鮮との緊張が高まる中で太平洋に展開する艦隊の防衛力が手薄になるからだ>

米海軍の作戦部長ジョン・リチャードソン大将は8月21日、世界全域における全艦船の運用を一時停止するよう指示を出した。これは、太平洋海域において、2カ月余りの間に2度も艦船の衝突事故が起きたことを受けたものだ。横須賀基地に拠点を置く艦船の衝突事故としては、2017年に入って3度目となる。

リチャードソンは動画による声明の中で、21日にシンガポール沖で発生したミサイル駆逐艦「ジョン・S・マケイン」(以降、マケイン)と石油タンカーの衝突事故について述べ、「太平洋海域で一連の衝突事故」が起きており、「これ以上は容認できない」と述べた。6月には伊豆半島沖で、米海軍のイージス駆逐艦「フィッツジェラルド」とコンテナ船が衝突し、乗員7名が死亡する事故があったばかりだ。

【参考記事】「トランプ大統領が命令すれば、米軍は中国を核攻撃する」米太平洋艦隊司令官

マケインは、事故当日の21日にシンガポールに自力航行で到着したが、乗組員5人が負傷したほか、10人が依然として行方不明となっている。

「(事故の多発という)傾向には、より強硬な措置が必要だ」とリチャードソンは述べた。「そのために、全世界で活動する米海軍のすべての艦隊を対象に、運用を一時的に停止するよう指示を出した」。目的は、「こうした事故の根底にある原因や要因を突き止めるべく、より包括的な見直しを行う」ためだ。

敵への即応力に問題

中東を訪問中の米国防長官ジェームズ・マティスは21日、リチャードソンのこの動きを支持。同行記者たちに対し、今回の見直しによって関連する海上事故の検討を行うと述べた。

「リチャードソンは、今回の事故に関して艦長が実施する事故調査だけでなく、あらゆる要因を検討するだろう」とマティスは述べた。「これは、現状に関するより広範囲にわたる調査だ」

【参考記事】米空母「実は北朝鮮に向かっていなかった」判明までの経緯

マケインの事故は、米海軍にとって大きな痛手となる。死者が出る見込みがあるからだけでなく、北朝鮮との緊張が高まる中で太平洋に展開する艦隊の防衛力が手薄になるためだ。

衝突事故による損傷の程度を考えれば、マケインとフィッツジェラルドの両艦船は数カ月にわたって運航できなくなる可能性が高い。フィッツジェラルドの事故を受けて米海軍は8月17日、艦長、副艦長、上級下士官の3人を解任すると発表していた。

アメリカではここ数年、防衛予算が削減されてきた。指揮官らによれば、訓練が削減され、メンテナンスが簡略化されたという。

「海軍は、油断ならない敵に備えるという軍事行動の焦点が定まっていなかった」と話すのは、誘導ミサイル駆逐艦の艦長を務めたことがある防衛コンサルタント、ブライアン・マクグラスだ。

【参考記事】米軍が「すべての爆弾の母」をアフガニスタンのISIS拠点に投下

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、高市首相の台湾発言撤回要求 国連総長に書簡

ワールド

MAGA派グリーン議員、来年1月の辞職表明 トラン

ワールド

アングル:動き出したECB次期執行部人事、多様性欠

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワイトカラー」は大量に人余り...変わる日本の職業選択
  • 4
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 5
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 9
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中