最新記事

日本社会

虐待児童を受け入れる一時保護所 ケアより規律でトラウマ生む例も

2017年6月26日(月)16時31分

一時保護所は、都道府県や政令指定都市などに設置された児童相談所が管理しており、これまで国の監督はほとんど受けていなかった。運営資金は、国と地方自治体の予算から出ている。

子どもに優しいイメージがある日本だが、社会的養護の下にいる子どもの権利擁護については、他の先進国に遅れを取っている。根本的な問題の一つは里親が不足していることで、これにより施設で集団生活を送る子どもの割合は他の先進国と比べて多くなっている。

制度上の問題を認識した政府は昨年、児童福祉法の理念を改正し、子どもが権利の主体であることを初めて明記した。だが、児童福祉の現場での実践は未だ不十分だと専門家は指摘する。

2015年まで約20年間、都内の児童相談所で児童心理司を勤めた山脇由貴子氏は、こうした一時保護所について、「本当はケアをするための場所でならなくてはいけない」と断言する。

一時保護所の現状について、「地域差はあるが、とにかく食べて寝られていればいい、虐待されなければいい、というような場所として設置されてしまっている。職員も心のケアをまったく配慮できていない」と同氏は指摘する。

現場の職員は、子どもたちは非行や虐待といった様々な理由で保護されており、ニーズも多様なため、厳しい規律が必要だと主張する。厳格な管理がなければ、混乱が起きるという。

都内のある一時保護所を監督する吉川千賀子氏は、「集団生活なので色々な約束事がある」と説明。「子どもの数に対して職員数も限られている。一人ひとりに目が行き届かず、事故につながるということがないよう、一定程度、管理的になってしまう部分も、否定できない」

自傷行為には罰も

一時保護所での平均入所期間は30日だが、自宅に戻ったり、里親の元に送られたり、児童養護施設などに移されるまで、数カ月を過ごす子どもたちも多い。

ロイターは、関東地方に33カ所ある一時保護所の1つへの取材を許された。他の施設への取材は、プライバシーやセキュリティを理由に認められなかった。神奈川県横須賀市にある一時保護所を最近取材したが、これだけで生活環境についての結論を得ることは難しかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トルコCPI、4月は前年比+69.8% 22年以来

ビジネス

ドル/円、一時152.75円 週初から3%超の円高

ビジネス

仏クレディ・アグリコル、第1半期は55%増益 投資

ビジネス

ECB利下げ、年内3回の公算大 堅調な成長で=ギリ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中