最新記事

ワークプレイス

オーストラリアの社会問題解決を目指すタクシーの取り組み

2016年10月7日(金)16時25分
WORKSIGHT

WORKSIGHT

ソーシャルイノベーションをサポートする政府系組織[tacsi] (写真:CEOの仕事スペース。一見そうとは思えない、カジュアルで可愛らしい部屋。)


[課題]  政府が解決できない社会課題の解を見つける
[施策]  当事者のなかに入り込んでともに課題を探る
[成果]  豪州のソーシャルイノベーションをリードする存在に

 2009年、オーストラリア州アデレードに、ソーシャルイノベーションをサポートする政府系組織タクシー(tacsi:The Australian Centre for Social Innovation)が立ち上がった。

 発案は、ヨーロッパのソーシャルイノベーション組織NESTAのCEOであるジェフ・モーガン氏による。コ・デザイナーのマーガレット・フレイザー氏によれば、タクシーの存在意義は「長らく改善の見られない社会課題に対し、政府と異なる立場から解決を試みる」こと。

「政府が直接的に『チェンジ』を生み出すのが難しくても、それを促進することは可能。われわれのように、外部から影響を与えられる組織が必要なのです」(フレイザー氏)

【参考記事】光と優秀な人材を取り込む「松かさ」型ラボ

当事者が抱えている課題を時間をかけて理解することから始まる

 初年度の活動は社会起業家に対する融資に留まったが、翌年には「サービスプロバイダ」へと舵を切った。「Family by Family」が最初のサービスである。その内容は、問題を抱えた家族と彼らをサポートする家族を引き合わせるというもの。

 一般的にソーシャルイノベーションはサポート側に回ることが多いが、タクシーは自らが主体となって当事者のなかにどっぷり入り込み、ともに課題を探る道を選んだ。

「調査のフェーズでは、スーパーマーケット等で『家族の話を聞きたい』と告知したところ、素晴らしい反応がありました。出会った家族にインタビューし、十分な時間をかけて彼らが抱える課題を理解していったのです。たとえば、『子供のしつけをよくしたい』『外出する時間が欲しい』。彼らの多くは自分たちの問題を自覚しているのですが、解決方法がわからないでいます」とディレクターのクリス・ヴァンストーン氏は語る。

「Family by Family」を機に、タクシーはソーシャルイノベーションをリードできる存在として認知された。現在は、タクシーとパートナーシップを結びたい大手企業も現れているという。

「企業は、彼らの顧客が生きたい人生を生きる助けをすることに、目を向け始めている。ビジネスとソーシャルは全く別ものですが、しかし一方では、多くのソーシャルグループがビジネスを求め、また多くのビジネスが社会的影響を求めているのです。これこそ社会的革新だと、私は思います」(フレイザー氏)

【参考記事】「ホームレス」を生み出さない社会を目指して

wstacsi-2.jpg

調査対象者を招いたワークショップを開く大きな部屋がいくつかある。

wstacsi-3.jpg

25人のスタッフが働いているが、固定席は10席前後。執務エリアもアットホームな雰囲気のデザインになっている。

wstacsi-4.jpg

キッチンスペースは、簡単なミーティングスペースになることが多い。

wstacsi-5.jpg

赤ちゃんを連れて出社するスタッフ多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中