最新記事

ロシア

絶対権力まであと一歩、プーチン最後の敵は「KGB」

2016年10月24日(月)16時10分
アンダース・オスルント(米大西洋評議会上級研究員)

 代わってトップに就任したのは概して40代半ばの実務能力に秀でた官僚で、多くが治安組織から引き抜かれた。強硬なナショナリストもなかにはいるが、ほとんどは慎重かつ有能な実務官僚で、新たな大統領府長官となったアントン・ワイノはその典型だ。プーチンは今や、アドバイザーより管理能力に長けたエグゼクティブを好んでいるようだ。

 職を追われた多くの政府高官が汚職に絡んでいるとされるが、一連の交代劇は反腐敗キャンペーンではない。汚職で最もトクをしたはずのプーチンの旧友らはいまだに無傷のままだからだ。プーチン流人事で憂き目を見たのは、治安組織の上官や成果に乏しい国有会社の管理職など、権力階層の中でも下層部に当たる。

KGBを復活させる

 ロシアの治安組織は4月以降、1991年に当時のボリス・エリツィン大統領がソ連崩壊に伴いKGBを分割して以来、ロシア史上最大の組織改編を進めている。ロシアの日刊紙「コメルサント」によると、プーチンには旧KGBを復活させ、分割された各々の治安組織を「MGB(国家保安省)」として新たに発足させる思惑だという。第二次大戦後のスターリン政権下でも同じ名称の組織があった。KGBの後継機関であるFSB(連邦保安庁)を母体に、一部で任務が重複するFSO(連邦警護庁)とSVR(対外諜報庁)を統合し、MGBが設立される見込みだ。

 別のロシア紙は、治安組織の再編がさらに進めば憲法改正を伴うと指摘した。現在ロシアではすっかり悪者扱いのミハイル・ゴルバチョフ前大統領が1990年3月当時に設置した大統領職を廃止し、ロシア帝国時代の称号に置き換えるのが今のトレンドだ。「ロシア皇帝」と名乗るとさすがに目立ちすぎるだろうから、一つの案は、大統領府と連邦安全保障会議を国家評議会に統合し、プーチンをそのトップに据えることだ。そうなれば、国家評議会はポリトビューロ(ソ連の共産党政治局)を刷新した組織になる。国家評議会議長になったプーチンには任期が適用されなくなり、権力の座に留まり続けることができる。

 仮にプーチンに異論を唱えることができる国家機関があるとすれば、それは現代ロシアで最もポリトビューロとの共通点を多く持つロシアの治安組織だ。今年になって、プーチンは安全保障会議から3名のメンバーを外した。全員がKGBでの勤務経験者だ。プーチンが後任に選んだのは、プーチンの信頼が厚い政治アドバイザーであり次期ロシア下院議長にも指名したバチェスラフ・ボロージンと、前述のワイノだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=まちまち、FOMC受け

ビジネス

ドル一時153.00円まで4円超下落、現在154円

ビジネス

FRB、金利据え置き インフレ巡る「進展の欠如」指

ビジネス

NY外為市場=ドル一時153円台に急落、介入観測が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 8

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 9

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 10

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中