最新記事

ISIS

ISISの海外テロ責任者アドナニの死でテロは収まるか

2016年9月1日(木)18時47分
ジャック・ムーア

 そのアドナニの死は、ISISの生き残り戦略と新兵募集に深刻なダメージを与えるだろう。

 だが、これでテロが収まると思うのは早い。幹部を次々に失い、支配地域と資金源を失いつつあるISISは、残された拠点を死守し、欧米人を恐怖の底に陥れるテロ攻撃を仕掛けようとする、と専門家は断言する。

「指導者が殺されると、テロ組織はいっそう過激になりがちだ。直後には、民間人を標的にした攻撃を行う確率も高い」と、ノースイースタン大学の政治学者で米シンクタンク・外交問題評議会のメンバーでもあるマックス・エイブラムズは言う。

 エイブラムズによると、テロ組織で幹部がいなくなると下部のメンバーがいきなり権力を握るため、攻撃のターゲットが変わる傾向がある。ただし、アドナニは尋常でなく過激だったので、それ以上に過激になることは考えにくいという。

【参考記事】ISISの支配下には31,000人以上の妊婦がいる

 アドナニはシリアのイドリブ県で77年に生まれた。「ISISの声」となり、過激思想に傾倒する若者に欧米諸国でテロを実行するよう、イスラムの聖なる月ラマダンを中心に、ネット上で盛んに呼び掛けてきた。その影響力は極めて大きく、米政府は500万ドルの懸賞金をかけて居場所の特定を急いでいた。

アサドに捕まったことも

 03年の米軍のイラク侵攻後、国際テロ組織アルカイダに入り、そこから分派したISISのメンバーとなったアドナニは、ISISの最古参の幹部の1人で、発足当初から中心的なメンバーだった。イラクでは米軍に、シリアではアサド政権に収監されたことがある。

 最盛期のISISは頭がいくつもある怪物のような組織だったが、米軍主導の有志連合がそれらの頭をひとつずつ斬り落としてきた。ここ数カ月間に戦争大臣のアブ・ウマル・アル・シシャニ、ナンバー2の司令官だったアブドゥル・ラーマン・ムスタファ・アル・カドゥリが殺害され、アドナニの死で、残された著名な指導者はバグダディのみとなった。
 
「(アドナニの)死でISISが終わるわけではない」と、安全保障専門のコンサルティング企業ソウファン・グループは30日に発表した。「それでも、ISISにとっては大きな痛手であり、テロの舞台から主役級の役者がまた1人消えたことになる」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

クレディ・スイス、韓国での空売りで3600万ドル制

ビジネス

4月消費者態度指数は1.2ポイント低下の38.3=

ワールド

香港中銀、政策金利据え置き 米FRBに追随

ワールド

米副大統領、フロリダ州の中絶禁止法巡りトランプ氏を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 10

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中