最新記事

歴史認識

メルケル首相の東京講演

二〇一五年三月九日、ドイツのアンゲラ・メルケル首相の訪日にあわせて、築地の朝日新…

2015年6月18日(木)15時30分
細谷雄一(慶應義塾大学法学部教授)※アステイオン82より転載

7年ぶりの訪日 戦後70年の今年、東京でメルケル独首相の講演会が開かれた(2015年3月) REUTERS/Koji Sasahara/Pool

 二〇一五年三月九日、ドイツのアンゲラ・メルケル首相の訪日にあわせて、築地の朝日新聞社にある浜離宮朝日ホールにて、メルケル首相の講演会が開かれた。幸い私もこの講演を聴講することができた。今年は第二次世界大戦終結七〇周年であり、安倍首相が八月に首相談話を発表することが想定されていることからも、歴史認識をめぐるさまざまな主張が激しく飛び交っている。とりわけ、同じく敗戦国として比較されることが多く、またこれまで歴史と向き合ってきたと高く評価されることの多いドイツの首相ということもあって、七年ぶりに訪日したメルケル首相の講演は大いに注目された。この講演についてはインターネットでも配信されて閲覧することが可能であり、また翌日の朝日新聞の紙面では講演の全文が掲載された。

 さて、メルケル首相はどのような発言をするのだろうか。ちょうど三〇分ほどの講演を同時通訳の言葉を通じて聴いて、意外な印象を受けた。というのも私の想定とは異なり、歴史認識に関する言及が少なかったのである。それもそのはずで、ドイツの首相に求められていることは、歴史的正義を世界に広めることではなく、ドイツの国益を実現することだからだ。

 メルケル首相が講演の中で強調したのは、敗戦国として出発したドイツと日本は、「自由で開かれた国々や社会とともに、自由で規範に支えられる世界秩序に対して、グローバルな責任を担うパートナー国家」である、ということであった。メルケル首相は、現在起きているウクライナ情勢や、東シナ海や南シナ海の情勢にも言及した。すなわち、「日本とドイツは、国際法の力を守るということに関しては共通の関心があります。それはそのほかの地域の安定にも関連しています。たとえば東シナ海、南シナ海における海上通商路です。その安全は海洋領有権を巡る紛争によって脅かされていると、私たちはみています。」さらに続けて、「小国であろうが大国であろうが、多国間プロセスに加わり、可能な合意を基礎にした国際的に認められる解決が見いだされなければなりません。それが透明性と予測可能性につながります」と語る。これは想像以上に、中国に対して厳しい言葉であった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、急激で大幅な利下げの必要ない=オーストリア

ビジネス

ECB、年内利下げ可能 政策決定方法は再考すべき=

ビジネス

訂正(7日配信記事)-英アストラゼネカが新型コロナ

ワールド

EXCLUSIVE-チャットGPTなどAIモデルで
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    習近平が5年ぶり欧州訪問も「地政学的な緊張」は増すばかり

  • 4

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    迫り来る「巨大竜巻」から逃げる家族が奇跡的に救出…

  • 8

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中