最新記事

新戦略

中国、対米サイバー攻撃の脅威

2013年3月8日(金)15時51分
フレッド・カプラン

 シャムーンはイランの核関連施設が空爆されればサイバー攻撃も辞さない、というメッセージだとみられている。それがイラン空爆の抑止力になるのか、逆に決定打になるのか。さらにはアラブ諸国に対する圧力となるかどうかは分からない。しかしイランの意図はそこにあると考えていいだろう。

 こうした状況に対処するにはまず、アメリカのインフラにサイバー攻撃を仕掛けても無駄だと、未来の敵に思わせることが重要だ。

 その方法としてよく言われるのは「同一手段による報復」、核抑止シナリオの表現を借りれば「相互確証破壊(MAD)」をちらつかせることだ。

 この方法はサイバー戦争ではそれなりに意味があるが、限界もある。中国やイランなど敵対の可能性がある国に比べて、アメリカのほうが国家安全保障や経済のコンピューターネットワークへの依存度がはるかに高いからだ。「同一手段による報復」の場合、報復攻撃による敵の被害は先に攻撃されたアメリカ側の被害を大きく下回るので、抑止力は不十分かもしれない。

 はるかに難しいがより有効なのは、最重要インフラをサイバー攻撃から防衛することだ。これにも限度がある。アメリカはネットにどっぷり依存していて、今さら経済をネットと切り離すのは高速道路網を全面通行禁止にするようなものだ。完璧な防衛もあり得ない。カネもスキルも十分にあるハッカーなら、その気になれば侵入できる。

報復よりも防衛強化を

 それでも最も重要な部分をファイアウォールで保護するか切り離すなどして、新たな侵入を監視することはできる。最重要インフラを運営する企業は至急そうした対策を講じるべきだ。

 2月にオバマ米大統領がサイバー防衛を強化する大統領令に署名したのもそのためだ。米議会は近年、プロバイダーが政府の定める安全基準に従うことを義務付ける法案をさまざまな理由で否決している。今回の大統領令で、こうした安全基準を政府自らが満たす方法について、少なくとも政府機関がプロバイダーと情報を共有し、一部を機密扱いにすることが可能になる。最初の一歩としては悪くない。

 しかしサイバー戦争を回避する方法はほかにもある。外交だ。

 クリントン、ブッシュ両政権のテロおよびサイバーテロ対策を担当したリチャード・クラークは、10年の著書『世界サイバー戦争──核を超える脅威・見えない軍拡が始まった』(邦訳・徳間書店)で、今の時代を原子爆弾開発直後の10年間に例えた。当時、アメリカとソ連の科学者は相次いで途方もない破壊力の兵器を生み出したが、その管理や抑止、戦争になった場合の被害をどう抑えるかについて、政治家や戦略家が理性的に考えられるようになるまでには時間がかかった。

 サイバー戦争についてもそろそろ理性的に考える時代を迎えていい頃だ。そのためにはシンクタンクの閉ざされた議論だけでなく、オープンな議論や国際交渉も必要だ。クラークは核兵器管理に関する考え方(査察と検証、先制不使用、およびジュネーブ条約などの援用)をサイバー兵器に応用できる可能性を詳述している。

 いずれにせよ、もう中国を怒らせたくないなどと言っている場合ではない。サイバー危機をどう防ぐかという問題に正面から向き合わなければならない。それも今すぐに、だ。

© 2013, Slate

[2013年3月 5日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

バイデン氏「6歳児と戦っている」、大統領選巡りトラ

ワールド

焦点:認知症薬レカネマブ、米で普及進まず 医師に「

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中