瓦礫の跡に残る見えない苦悩
柔軟性のない企業助成金
それ以上に問題なのは、支援金や義援金の配分が限られていること。対象は基本的に倒壊した家屋と死亡者・行方不明者であり、例えば職場を失った被災者や被災した企業には届かない。ある被災県で義援金などを分配する担当課の職員は「援助のカネはすべての被災者が対象ではない」と指摘する。「分配先の対象は国が決めている。自治体ではその決まりを変えることはできない」
そのため多くの企業が資金を調達する困難に直面し、事業を再建できていない。こうした状況に政府は、既存の支援法では対象にならない企業向けに補正予算を組み、助成金を配分した。
だが皮肉にも、この助成金が地元から問題視されている。現在の基準では条件が厳し過ぎるため、多くの企業が助成金に応募すらできないのだ。
同じ被災地の中でも、地域によって企業を取り巻く状況はまったく異なる。それなのに助成金を受ける条件はまったく同じ。「地域ニーズとかみ合っていない」と、宮城県議会議員の高橋長偉は指摘する。
例えば助成金は複数の同業者で形成するグループだけを対象にしており、1社だけでは支援を受けられない。だが地域によっては、グループを組むほど同業者が存在しない。しかも事業を再建した際の成果を具体的に示すよう求めるなど条件も厳しく設定されている。
冒頭の佐長商店も助成金に申し込んだが、審査に通らなかった。「何枚も同じような書類を提出させられた揚げ句、事業規模に比較して額が大き過ぎると言われた。助成金が受けられるのは宝くじに当たるようなものだ」と、来年に佐長商店を継ぐ予定だった社長の息子は言う。
塩釜市のある材木店主も、助成金を受けられる企業の選定は公正ではないと感じている。政治家とのつながりが強い企業や、大企業ばかりが優遇されているという疑念が消えないのだ。「本当に困っている人を助けるという視点はない」
支援もなく自力で資金繰りをするめども立たず、それでも設備投資しなければならない場合は借金するしかない。もちろん、仕事が再開できても業績が悪ければ返済できなくなる。利益を上げる見通しが立たなければ、借金には踏み切りにくい。
今回のような大規模災害では、取引先が被災している場合も多い。仙台市のあるIT企業の社長は「直接被災していない会社も、被災地からの仕事を失っている」と言う。
企業を相手にホームページ制作やコンサルティング業務を行うこの会社も、主な顧客は地元企業だ。仕事の受注なしに会社は成り立たない。仕事量が回復する見通しが立たなければ、仮に融資を受けられるとしても「借りても仕方がない」のが現状だ。