最新記事

レストラン

スペイン「アサドール・エチェバリ」日本人シェフの美食哲学

2017年8月3日(木)17時40分
小暮聡子(本誌記者)

「アサドール・エチェバリ」のオーナーシェフ、ビクトル・アルギンソニスと右腕の前田哲郎 KENJI TAKIGAMI FOR NEWSWEEK JAPAN

<世界の美食家を魅了するバスク地方の人気レストラン「アサドール・エチェバリ」。世界レストランランキング6位の同店で2番手シェフを務める前田哲郎の型破りな料理人人生>

星の数ほどあるレストランの中で、「世界最高峰」はどこか。それを探す手掛かりとして近年ミシュランガイドよりも注目されているのが、「世界のベストレストラン50」というランキングだ。世界各地の料理人やフードジャーナリスト、美食家たちが毎年、投票で選ぶ形式で、過去には「ノーマ」(デンマーク)や「エル・ブリ」(スペイン、11年閉店)など奇才シェフの名店がトップに選ばれ注目を集めてきた。

ここ数年、このランキングで急速に順位を上げ、世界の美食家の熱い視線を集めているのがスペインの「アサドール・エチェバリ」だ。14年から毎年34位、13位、10位と快進撃を続け、今年は6位に食い込んだ。

スペイン北部バスク地方の小さな集落にあり、土曜以外は昼のみの営業ながら、数カ月先まで予約はいっぱい。最近は遠方でもその地まで出掛けていって極上の食体験をするという「デスティネーション・レストラン」が食通のトレンドだが、エチェバリもそんな美食の城として国内外の客を魅了してきた。

エチェバリで出される15皿のコース(6月の取材時は154ユーロ)は、自家菜園の野菜など、ほとんどがこの土地で取れた食材で構成される。調理にガス火ではなく薪の熾火(おきび)を使っているところも、舌の肥えた客たちをとりこにしている魅力の1つ。メイン料理の火入れだけでなく、ミルクを温めるなど前菜の細かい工程にまで薪の熾火を取り入れる。だから、エチェバリの料理は火の味がすると、「世界のベストレストラン50」の覆面評議員の1人は言う。

magspain170803-2.jpg

スペインのバスク地方にあるアサドール・エチェバリ(Asador Etxebarri)。http://asadoretxebarri.com/en/   KENJI TAKIGAMI FOR NEWSWEEK JAPAN

ゼロからスペイン修行へ

そんな個性的な名店の急成長を陰で支えてきたのが、若い1人の日本人シェフだ。前田哲郎、33歳。30年近い歴史を持つエチェバリのここ数年の大躍進は、彼抜きでは語れない。13年1月からエチェバリで働き始め、現在はオーナーシェフであるビクトル・アルギンソニスの右腕を務める。2番手シェフとして、毎日替わるコース料理のうち定番以外のメニューを日々考案し、アシスタント4人を指示して前菜作りや焼き場を担う。

そんな前田が、実はわずか7年前まで本格的な料理経験はなく、スペインの位置もよく知らなかったというから驚きだ。

石川県金沢市出身の前田がスペインに渡ったのは、26歳のとき。父の営むおばんざいバーを数年間手伝ったあと、北海道のスキー場でアルバイト生活を送っていたが、ある日帰郷したときに金沢のスペイン料理店で出会った男性がその後の運命を変えることになる。彼はバスク地方のミシュラン1つ星店「アラメダ」で働くシェフで、店で研修生を募集しているという。前田は酔っ払った勢いで、アラメダで働きたいと宣言した。

magspain170803-3.jpg

前田が暮らす山の中の家。食卓には、飼っている鶏が産んだ卵や妻と一緒に育てた野菜が並ぶ KENJI TAKIGAMI FOR NEWSWEEK JAPAN

【参考記事】アメリカ人に人気の味は「だし」 NYミシュラン和食屋の舞台裏

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏成長率、第1四半期は予想上回る伸び 景気後

ビジネス

インタビュー:29日のドル/円急落、為替介入した可

ワールド

ファタハとハマスが北京で会合、中国が仲介 和解への

ビジネス

ECB、インフレ鈍化続けば6月に利下げ開始を=スペ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「瞬時に痛みが走った...」ヨガ中に猛毒ヘビに襲われ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 10

    ナワリヌイ暗殺は「プーチンの命令ではなかった」米…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中