最新記事
BOOKS

【大河「べらぼう」5分解説②】蔦重本人が広告に登場! 耕書堂の名を広めた販売戦略

2025年4月26日(土)17時40分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
伊達模様見立蓬萊

『伊達模様見立蓬萊(だてもようみたてほうらい)』 1780(安永9)年正月 国立国会図書館蔵

<蔦重の版元としての実力は、本づくりだけでなく、当時としては異例の優れた「売り方」によって見て取れる>

大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』が話題となっている蔦屋重三郎。4月20日放送の第16回では、平賀源内の死を受け、源内がつけた「耕書堂」の名を世に打ち出すべく、新作の黄表紙『伊達模様見立蓬萊(だてもようみたてほうらい)』に耕書堂の新刊目録を印刷し、本自体を宣伝ツールとして活用する描写が描かれていた。

本記事では、そんな彼の版元としての手腕がうかがい知れる広告戦略と手堅い商いについて見ていこう。

本記事は書籍『Pen Books 蔦屋重三郎とその時代。』(CEメディアハウス)から抜粋したものです。

※蔦屋重三郎 関連記事
神田伯山が語る25年大河ドラマ主人公・蔦屋重三郎「愛と金で文化・芸能を育てた男」
【「べらぼう」が10倍面白くなる!】平賀源内の序文だけじゃない! 蔦重が「吉原細見」にこめた工夫
大河ドラマ『べらぼう』が10倍面白くなる基礎知識! 江戸の出版の仕組みと書物の人気ジャンル
作家は原稿料代わりに吉原で豪遊⁉︎ 蔦屋重三郎が巧みに活用した「吉原」のイメージ戦略

◇ ◇ ◇

蔦重自ら登場する「見立蓬莱」

蔦重が晩年に手掛けた浮世絵は、今でこそ日本を代表する古典的な芸術作品として海外からも評価が高いが、江戸時代ではそれはあくまでも商品であり、宣伝のツールでもあった。

これと同様に、蔦屋重三郎は文化人である以前に商売人である。確実な売上が見込める商品を扱うとともに、一方で天明期に全盛を迎えた黄表紙を多数刊行し、ブームの一翼を担った。絵入りの娯楽本である黄表紙は安価で大きな売上が見込めるものではなかったが、積極的に刊行することで版元としてのブランド価値を高めた。

さらに、大量に刊行される黄表紙や、定期刊行物である吉原細見の巻末に、耕書堂の新刊案内や既刊書の目録を載せるなどの工夫を施した。いわば、商品そのものが広告・宣伝となったのだ。

『伊達模様見立蓬萊(だてもようみたてほうらい)』

『伊達模様見立蓬萊(だてもようみたてほうらい)』 1780(安永9)年正月 国立国会図書館蔵
安永9年に出された蔦重版の黄表紙のうちのひとつ。本書の最後は、富士山型に「喜」という当時の蔦重の商標が背中に描かれた男性が、芝居の幕を開けている。吊り下げられた短冊は黄表紙の新版目録であり、版元の蔦重自ら、今後の新たなる展開を示す趣旨となっている。

『吉原細見(蔦重版)』巻末に掲載された蔵板目録

『吉原細見(蔦重版)』巻末に掲載された蔵板目録 1795(寛政7)年 国立国会図書館蔵 年2回、定期的に刊行される吉原細見は、吉原内外に流通し、しばしば地方から滞在している者にとっては、江戸土産にすることもあった。蔦屋重三郎はその吉原細見に刊行物の目録を載せ、宣伝・広告のツールとして活用している。「耕書堂蔵板目録」とあるが、耕書堂は蔦重の店の屋号である。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、公共放送・ラジオ資金削減へ大統領令 偏

ビジネス

英スタンチャート、第1四半期は10%増益 予想上回

ワールド

インドネシアCPI、4月は+1.95% 8カ月ぶり

ビジネス

三菱商事、今期26%減益見込む LNGの価格下落な
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中